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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年8月3日 No.3601 数理活用に関する世界の動向とスマートイノベーションの数理活用事例 -イノベーション委員会

経団連は7月13日、東京・大手町の経団連会館でイノベーション委員会(安川健司委員長、稲垣精二委員長、田中孝司委員長)を開催した。東北大学の小谷元子理事・副学長から、数理活用に関する世界の動向について、また、三菱電機開発本部の岡徹本部長とNEXT Logistics Japanの梅村幸生代表取締役から、スマートイノベーションに関する数理活用事例について、それぞれ説明を聴いた。説明の概要は次のとおり。

■ デジタル時代の数理活用に関する世界の動向(小谷氏)

小谷氏

21世紀の今、大量のデータを得られるようになったが、データを解析して価値を創出するために、世界では数学の重要性が認識されてきている。英国が2020年に5年間で3億ポンドもの予算を付けたほか、米国ではベストジョブランキングで数学者が上位にある。アフリカでもクリティカルイノベーションを起こすために、サブサハラの国々が高等研究所を創設し、IBM等の世界的大企業が支援・協働している。

東北大学でも知の創出センターで長期的な研究を行っており、企業が提供する課題を日米の学生が数理を活用して解決する国際インターンシップ「g-RIPS」は評価が高い。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で人気の同サマープログラムに、18年からUCLAや企業と連携して取り組んでいる。

AIやデータの活用をはじめ、具体的な課題を抽象化・一般化する際、数学の力が重要である。ビジネスや社会課題の解決などの場面でも数学のニーズが高まっている。経団連数理活用産学連携イニシアティブは、日本中の数理科学者とつながるネットワークであり、今後も多くの企業にぜひ活用してほしい。

■ 研究開発における数理人材の活躍(岡氏)

岡氏

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)やデータ連携が重視されるなか、三菱電機は今後の経営戦略として、製品ライフサイクル全体において、システム活用やシステム間連携、社会課題を解決するソリューションの提供に注力していく。この戦略のもと、機器制御やセンシングから、AI、暗号・セキュリティー、さらにデータ活用といった分野にまで数理人材の活躍の場が広がっており、数理活用の重要性が高まっている。

社内には、基礎力向上、探究心の刺激、自己研鑽を目的とした有志参加の数学クラブがある。また、21年からg-RIPSにも参画して課題を毎年提供しており、プログラム終了後、大学との共同研究につながった例もある。企業は数理科学が社会でどのように使われるのか、若い世代に発信していく必要があり、数理人材の底上げに向けた育成の仕組みを議論すべきである。

■ 物流の社会課題解決における数理活用事例(梅村氏)

梅村氏

NEXT Logistics Japanは、18年からトラックドライバー不足やカーボンニュートラルなどの社会課題の解決に向けて、異業種の荷主が荷物を混載して1台のトラックをシェアする「ダブル連結トラック」を活用している。

国内のトラック運送事業者の平均積載率は39%であり、日本のトラックの6割が空気を運んでいるといえる。当社はダブル連結トラックを活用することで、22年は積載率を平均で63%、最大で89%にまで伸ばし、CO2排出量も従来比で28%削減している。

混載する荷物の組み合わせを最適化・可視化する量子コンピューター技術を用いたシステム「NeLOSS(NEXT Logistics Optimal Solution System)」を世界に先駆けて活用している。荷物情報や荷室、荷姿、車両、時刻などの制約条件となるデータをNeLOSSのアルゴリズムで計算する。今後も異業種の荷物を一緒に運ぶことで、物流業界の課題を解決し、生産性を上げていきたい。

【産業技術本部】

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