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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年9月14日 No.3605 重要労働判例説明会を開催

延増氏

経団連は8月9日、重要労働判例説明会をオンラインで開催した。延増拓郎弁護士(石嵜・山中総合法律事務所)が、「経済産業省性同一性障害事件・最高裁判決」を解説した。概要は次のとおり(第1審、控訴審の概要については2021年11月25日号既報)。

■ 事件の概要

本件は、経産省に所属するトランスジェンダー(身体的性別は男性だが、自認している性別は女性)の原告が、執務室から2階以上離れた階の女性トイレのみを使用するという制限をしないこと等の行政措置要求について、人事院がこれを認めないとした判定(本人事院判定)の取り消し(第1事件)とともに、経産省内で女性トイレの利用を制限したこと等について国家賠償を求めた(第2事件)事案である。

■ 判決のポイント

最高裁は、第2事件について、トイレの使用に関する経産省の処遇は違法ではないとした東京高裁判決を維持した。

他方、第1事件について、東京高裁は、トイレの使用に関する処遇の維持、本人事院判定はそれぞれ経産省と人事院の裁量権の範囲の逸脱や濫用とはいえないとしていたが、最高裁はこれを覆し、違法とした。判決が分かれた理由としては、最高裁では具体的な考慮要素を挙げて判断したことが影響していると考えられる。考慮した事項は、(1)上告人が性同一性障害の診断を受けているなかで、男性トイレを使用するか執務室から離れた階の女性トイレ等を使用せざるを得ず、日常的に相応の不利益を受けていること(2)上告人は健康上の理由から性別適合手術を受けていないが、女性ホルモンの投与を受けているほか、性衝動による性暴力の可能性は低い旨の診断を受けており、上告人が女性トイレを使用したことでトラブルは起きていないこと(3)上告人が女性トイレを使用することについて明確に異を唱える職員がいたことはうかがわれないこと(4)上告人の女性トイレ使用等について経産省内で説明をしてから本人事院判定まで約4年10カ月の間、上告人のトイレ使用について特段配慮すべき職員がいるかの調査や、トイレ使用に関する処遇の見直しの検討が行われていないこと――を挙げている。そのうえで、本人事院判定は、具体的な事情を踏まえることなく、他の職員への配慮を過度に重視し、上告人の不利益を不当に軽視しており、裁量権の範囲を逸脱、または濫用したものとして違法と判断した。

■ 実務上の留意点

最高裁は、本人事院判定の違法性は認めたが、国家賠償法上の違法性は認めていない。本判決は統一的な基準を示したものではなく、企業で本件類似の事案が問題になった場合の違法性の判断枠組みは、理論上は公務員の不法行為による損害賠償を規定した国家賠償法上の違法性の判断枠組みに近くなると考えられる。もっとも、本判決を踏まえると、性的マイノリティーと他の従業員間の利益衡量・利害調整は、最高裁が挙げたような要素に基づいて客観的かつ具体的に行うことが重要である。

【労働法制本部】

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