1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2023年11月2日 No.3611
  5. 合成生物学がもたらす変革

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年11月2日 No.3611 合成生物学がもたらす変革 -ギンコ・バイオワークスが講演/バイオエコノミー委員会

ナイト氏

経団連は10月10日、東京・大手町の経団連会館で、バイオエコノミー委員会(小坂達朗委員長、岩田圭一委員長)を開催した。2023年2月に続いて再度、バイオ分野での国際的なリーディング企業の一つであるGinkgo Bioworks(ギンコ・バイオワークス)を招き、トム・ナイト米国マサチューセッツ工科大学教授をはじめ同社幹部から、同社の最新の事業概要ならびにバイオ関連産業の動向等について幅広く説明を聴いた。説明の概要は次のとおり。

■ 合成生物学の始まり

当社の創業者の一人であるナイト氏は米国マサチューセッツ工科大学の電気工学部およびコンピューターサイエンス学部で学び、その後長年にわたり同大学にて教鞭をとった。1990年ごろ、半導体の技術発達が幾何級数的に伸びているなか、ナイト氏は半導体の技術発展が近い将来鈍化すると予想するとともに、次の技術革命がどこで起こるのかを考え、コンピューター工学の手法をタンパク質構造研究に使用することを着想した。その後自ら研究室を立ち上げて合成生物学を学問として確立する一方、同研究室の卒業生と共に当社を立ち上げた。

生物の遺伝子は4種類の塩基でできている。この配列をコントロールできれば、コンピューターを制御するのと同様に生物学も制御できると考えた。生物が有する多量で複雑な情報を解析するためには、高度かつ高速での情報処理が必須であり、ここでAIが活躍する。高度なAIシステムの構築には、大量のトレーニングデータが必要になるが、当社は生物学実験を自動化することにより、そのデータ収集、蓄積に成功している。

■ ギンコ・バイオワークスのビジネスモデル

当社はCRO(Contract Research Organization)である。自社の製品を作るのではなく、顧客が保有していない遺伝子情報プラットフォームを提供する。顧客は、当社が有する遺伝子データを受けることで、製品の開発および市場への投入を加速することができる。加えて、生物学の実験に必要とされる高額設備のコストを削減することも可能となる。協業する場合は、顧客との間で具体的な開発プランを立てたうえで開始するとともに、プロジェクト開始後もマイルストーンの到達度を振り返りつつ、プロジェクトの進行の可否を随時判断していく。

■ ギンコ・バイオワークスが有する独自の遺伝子データ

従来、生物学の実験は研究者により手作業で行われてきたが、当社では15年かけて研究操作を自動化し、大規模な遺伝子データの収集に成功した。すでに、民間では最大規模となる20億以上の遺伝子配列情報を有しており、SIB(Swiss Institute of Bioinformatics)などが管理しているタンパク質配列データベース「UniProtKB/TrEMBL」と重複する情報は5%程度である。この多量かつ独自の遺伝子データを活用し、医薬、化学、農業に加え、廃水汚染物質除去やバイオセキュリティービジネスなど多岐にわたって事業を展開する。医薬分野においては、細胞治療、抗体医薬、mRNA医薬を含む遺伝子治療などにおいて複数の企業と協業を行う。mRNA医薬分野では、2022年にはCircularisを買収し、線形RNAよりも安定性が高く免疫原性が低い環状型RNAの作成技術を新たに得た。また、化学分野ではより効率的な化学合成経路の提案、農業分野では代替タンパクの開発や植物由来の希少化合物の効率的な生産などを手がけている。

■ 中国の台頭

最近の合成生物学における中国の躍進には目を見張るものがある。驚くほどの巨大な投資が行われており、中国BGIグループがバイオファウンドリー(注)として当社に匹敵するほどの競争力を獲得しつつある。最先端の技術と大量の資金、有能な人材を確保しているようであり、最も強力なライバルになり得るとして注視している。

(注)合成生物学等の技術開発に必要な装置群を集積させ、オートメーション化した技術パッケージ

【産業技術本部】

「2023年11月2日 No.3611」一覧はこちら