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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年11月2日 No.3611 グローバル・サウスの実体と日本の役割 -開発協力推進委員会政策部会

大野氏

経団連は10月13日、東京・大手町の経団連会館で、開発協力推進委員会政策部会(木村普部会長)を開催した。政策研究大学院大学の大野健一名誉教授から、グローバル・サウスとの連携・協力のあり方について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ グローバル・サウスとそれを取り巻く世界情勢

昨今、メディアに頻繁に登場する「グローバル・サウス」という言葉は、「先進諸国に対する意見や批判を発信し、自分たちの利益を追求するために組織される後発諸国の連携運動」として定義できる。これは、政治性・可変性の強い概念であり、その目的、主導国、参加国はケースバイケースで変動する。途上国は数が多く、政体・理念も多様で、政治・経済的にライバルであったり、領土問題を抱えていたりするところもある。各国の思惑は異なり、先進国への対抗以外の求心力がないため、グローバル・サウスのメンバーを固定することは難しい。

多数の盟主候補国が争う多極化した現状において、途上国は特定のビジョンや陣営に帰属することなく、その都度の国益を追求する。これらの国々はさまざまなイニシアティブや枠組みに自由に参加するうえ、たとえそれらの間で目的や主導国の思惑が対立していても問題にしない。また南の国々の間でも、グローバル・サウスの盟主となろうとする点での競合がある。現在の途上国の帰属は条件付きで一時的なものであり、民主主義・法の支配・領土不可侵といった根本的価値では動かすことができない。そのため盟主になろうとする国は、多くの途上国に常に利益を提供し続けなければならない。

■ 日本が取るべき戦略

日本は、途上国との関係を築くうえで、理想主義と現実主義の両方を追求することが重要である。すなわち民主主義、人権、市場経済、領土不可侵などの理念を欧米と共有し推進する一方で、途上国との現実的かつ具体的な連携を強化しなければならない。これまでの経済外交と企業活動の基本原則は継続すべきであるが、不足している次の点を強化すべきである。

第1に、国力に見合った選択と集中を行うことである。日本は、(1)相手国のニーズ(2)日本にとっての戦略性・重要性・協力可能性(3)相手国指導者のやる気・能力――などを基準として、協力する「分野」と「相手国」を絞り込むべきである。中国と同じ土俵に立つ必要はなく、日本らしいやり方で、相手国と信頼関係を築くことが重要である。第2に、政府の発信能力の強化である。途上国を引き付けるためには、ヒト・制度を中心とした開発・経済協力方針の確立が不可欠であり、政治面のビジョンである「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」に匹敵するような明快で魅力的なメッセージを発信しなければならない。第3に、情報収集と政策対話の強化である。公式文書・発表からはわからない、相手国指導者の真の関心や政権の内部事情を把握することが重要であり、そのためには継続的な人脈づくりが不可欠である。第4に、知日産業人材を動員することである。日本は、長年にわたり途上国の人材を育成してきている。日本を愛し、日本語と日本のやり方を理解する人材は貴重な「資産」であり、有効に活用する仕組みを構築することが重要である。

【国際協力本部】

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