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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年11月2日 No.3611 重要労働判例説明会を開催

丹羽氏

経団連は9月28日、重要労働判例説明会をオンラインで開催した。丹羽正明弁護士(弁護士法人草野法律事務所)が、「名古屋自動車学校事件・最高裁判決」について解説した。概要は次のとおり。

■ 事件の概要

本件は、自動車学校を経営する株式会社(上告人)を定年退職後、同社と有期労働契約を締結して再雇用された労働者2人(被上告人)が、正社員と労働条件の相違があるとして不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

■ 判決のポイント

本件では、もともと手当・基本給・賞与の相違について争っていたが、手当については裁判途中に長澤運輸事件・最高裁判決(注)が出たため、控訴審以降、実質的に基本給・賞与が争点となっていた。

最高裁は、再雇用者と正職員の各基本給や賞与の相違について、「性質やこれらを支給することとされた目的を十分、踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま」、不合理とした判断は労働契約法(労契法)20条の解釈適用を誤り違法と判断。再雇用者と正職員の賃金格差は6割を下回ってはならないとした原審判決を破棄・差し戻しした。

基本給について嘱託職員と正職員では異なる性質や支給の目的があると判示したのは、嘱託社員は役職に就くことが想定されず、正社員とは異なる基準で支給されていること等からである。賞与については、被上告人に支給された一時金が正職員の賞与に代替するとしたうえで、原審がこれらの性質・支給趣旨を検討していないとした。また、労使交渉について、結果のみならず所属する組合と上告人代表者とのやりとり等、具体的な経緯も勘案すべきとした。

私見として、基本給、賞与とも両職員間で性質や支給目的は全く異なるとした以上、そもそも正職員と嘱託職員で基本給や賞与を同じにする必要はなく、差異は不合理といえない事案であったとも考えられる。ただし、賃金項目を個別に判断すべきとしたこれまでの関連最高裁判例を考慮すると、基本給に関する判決は、勤続給や職務給、職能給に細分化し、それぞれについて差額が不合理かを判断すべきという意味にもとらえることができ、留意が必要である。

■ 実務上の注意点

本判決により、再雇用者と正職員の賃金格差が6割を下回ってはならないという原審の基準は消滅したといえる。どれくらいの差であれば合理的と判断されるかは、個別の事情によって異なるものであり、一概には判断できない。

また、本件の論点であった労契法20条は、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)8条の成立により削除された。現在は待遇の相違の不合理性は同法8条に基づいて判断される。不合理か否かの判断は、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに、(1)その待遇の性質・目的に照らして待遇を同様にすべきか(2)そうであるのに相違がある場合は、相違が適切と認められる事情(職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他職務の成果、能力、経験、事業主と労働組合の交渉の経緯等)――に基づいて判断される。

企業は、労働者の雇用形態を確認し、待遇に違いがある場合はその理由も確認する必要がある。また、不合理な待遇差ではないことを説明できるようにするとともに、法違反が疑われる際はすぐに是正することが必要である。

(注)手当については金額だけではなく賃金項目をその趣旨・目的から個別に判断すべきとし、正社員と嘱託社員の間で異なる、将来の転勤・出向の可能性や会社の中核を担う可能性の有無という差異に関連しない手当の相違は不合理とした

【労働法制本部】

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