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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年12月21日 No.3618 グローバル・サウスの経済的影響力 -開発協力推進委員会政策部会

磯野氏

経団連は11月27日、東京・大手町の経団連会館で、開発協力推進委員会政策部会(木村普部会長)を開催した。東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)の磯野生茂シニアエコノミストから、説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ デカップリングの実態

世界経済の分断(デカップリング)とは、米国率いる西側陣営と中国率いる東側陣営のそれぞれに属する各国政府が、対立する陣営に対して貿易、投資、技術、人の移動に制限を課すことである。また、企業が他の地域から中国のサプライチェーンを分離することも指すが、完全な形で行われることはまれであり、中国への過度の依存を減らす「チャイナ+1政策」の継続と解釈できる。

■ デカップリングで漁夫の利を得るグローバル・サウス

ERIAでは、デカップリングによる影響を観測するため、経済地理シミュレーションを実施した。その結果、他陣営への制裁等に参加する国は負の経済的影響を受け、それが世界経済のマイナスにつながる一方、中立国は「漁夫の利」を得ることがわかった。政策的な分断が激化するほど、西側・東側陣営のマイナスは大きくなる一方、中立国の便益は大きくなる。そのため、経済的観点では、両陣営が中立的立場をとるグローバル・サウスを自陣営に引き入れることは難しく、相手陣営を世界から完全に孤立させるのも困難であると理解できる。

この傾向はすでに統計に表れている。足元では、中国から米国への輸出が減少する一方、ASEANから米国への輸出が増加している。同時に、中国からASEANへの輸出も急伸している。中国からASEANを経由して付加価値を高めたうえで、米国に輸出するという新しい取引が生まれていると推測される。

■ サプライチェーンの再構築は、国内や同志国以外でも発生

日本企業は、政策による分断がどの程度進展するか、複数のシナリオを想定し、サプライチェーンの最適化・再構築を実施しなければならない。日本政府は、デカップリングの経済的コストを精細に分析するとともに、企業のサプライチェーン再構築の動きに対応する必要がある。現在の政策は、経済安全保障の観点から、生産の国内回帰(リショアリング)や同盟国への移管(フレンド・ショアリング)の支援に注力している。しかしながら、実際には、国内や同盟国以外でも、サプライチェーンの最適化や再構築が行われている。

■ グローバル・サウスをはじめとする中立志向の国々と連携強化を

こうした状況のもと、わが国にとって、中立を志向するグローバル・サウスの国々をサプライチェーンの最適化・再構築のなかにどう位置付けるかが重要である。具体的には、アジア太平洋地域との経済連携強化、ASEANでのビジネス環境の改善や強靭性強化に資する政策と、国内産業の強化や投資環境の整備を戦略的に組み合わせることが不可欠である。

これには、グローバル・サウスの国々が中立的な立場を維持することが条件となる。分析上は中立国がメリットを得る結果となったが、地政学的要素等も絡み、バランスを保ち続けるのは決して容易ではない。グローバル・サウスのそれぞれの国は、国際的な経済連携の枠組みに幅広く参加し、国際的な場で中立的立場として発言するなど、自律性をアピールし存在感を高めることが求められる。

【国際協力本部】

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