経団連は5月22日、労働法規委員会国際労働部会(市村彰浩部会長)をオンラインで開催した。労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎労働政策研究所長から、EUのプラットフォーム労働指令について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ EUプラットフォーム労働指令案の展開
同指令は、プラットフォームを介して行われる労働(プラットフォーム労働)を対象としている。EUは、2000年から従属的自営業に関する議論を開始し、21年からプラットフォーム労働に関する議論が本格化した。EUの政策執行機関である欧州委員会の雇用社会総局は、同年12月にプラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案を提示した。その後、数年にわたりEUの立法機関である閣僚理事会や欧州議会において検討され、度重なる合意と破綻を経て、24年4月、欧州議会は閣僚理事会の合意案を採択・決定した。
■ EUプラットフォーム労働指令の概要
現時点の閣僚理事会の合意案の概要は次のとおり。
適用範囲(第1条)は、事業場の所在地、適用法のいかんを問わず、EU域内で遂行されるプラットフォーム労働を編成するデジタル労働プラットフォームとされている。EU域外に本社があっても、EU域内のプラットフォーム労働遂行者を使用していれば、同指令が適用される。
「プラットフォーム労働遂行者」とは、契約のいかんにかかわらず、プラットフォーム労働を遂行する者であり、雇用労働者と自営業者の双方を含む(第2条)。「プラットフォーム労働者」とは、プラットフォーム労働遂行者のうち雇用契約を有する、または有するとみなされる者である。
雇用関係の法的推定(第5条)については、採択決定まで紆余曲折があったが、デジタル労働プラットフォームとプラットフォーム労働遂行者との契約関係は「支配と指揮」(control and direction)を含む要素が見いだされる場合に、雇用関係があると法的に推定されることとなった。デジタル労働プラットフォームが法的推定に反論する際は、雇用関係にないことをデジタル労働プラットフォーム側が立証する必要がある。なお、法的推定は、行政・司法手続きに適用されるが、税制、刑事、社会保障事項には適用されない。
アルゴリズム管理は、プラットフォーム労働に限定し定めている。例えば、(1)私的な会話や非遂行中の個人データ、差別根拠となり得るデータ等の処理の制限(2)自動的なモニタリングあるいは意思決定システムによる意思決定について、人間による監視・評価――などを求めている(募集・選抜から適用)。また、プラットフォーム労働遂行者は、自動的な意思決定システムによる全ての意思決定内容について説明を受ける権利を有する一方、デジタル労働プラットフォームには、アカウントの制限・停止・解除等について、理由を明記した書面の提供を義務付けている。
国内法へ反映させる期限(第29条)については、同指令公布日の2年後とされている。現時点で指令は公布されていないが、恐らく26年ごろまでが期限になると思われる。
【労働法制本部】