1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2025年5月22日 No.3683
  5. シンポジウム「資本主義を考える~真の利益とは何か」を開催

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年5月22日 No.3683 シンポジウム「資本主義を考える~真の利益とは何か」を開催 -21世紀政策研究所

中島研究主幹

メイヤー氏

21世紀政策研究所(十倉雅和会長)の資本主義・民主主義研究プロジェクト(研究主幹=中島隆博 東京大学東洋文化研究所所長)は4月9日、東京・大手町の経団連会館で、オックスフォード大学サイード経営大学院のコリン・メイヤー名誉教授、早稲田大学商学学術院の宮島英昭教授を招き、オックスフォード大学日本事務所の後援を得て、シンポジウム「資本主義を考える~真の利益とは何か」を開催した。前半ではメイヤー氏と宮島氏がそれぞれ講演し、後半では中島研究主幹がモデレーターとなってパネルディスカッションを行った。概要は次のとおり。

■ Reimagining Capitalism Solutions for a World in Crisis And Japan in Transition(メイヤー氏)

日本企業の問題は、低い成長・生産性・国際競争力である。これらに対処するために2013年以降進められたコーポレートガバナンス改革によって、日本企業の所有構造は変化し、株式の持ち合いが解消するとともに機関投資家の株式保有割合が高まっている。この変化は、効率性やイノベーションを重視するものとして基本的に良いこととされている。一方、これによって日本で比較的保たれていた社会的調和や環境に影響が生じるのではないかとの懸念が広がっている。

資本主義の大きな推進力は利益を求めることにある。では、企業にとっての真の利益とは何だろうか。現在、企業の利益は、収益およびコストから導き出されている。この「コスト」には、企業が生み出すさまざまな問題(低賃金労働、搾取的な取引、環境汚染、温室効果ガスの発生など)を回避し、是正するためのコストが考慮されておらず、真のコストとはいえない。導き出される「利益」も真の利益ではない。これは、経済学でいう外部性(第三者への影響)で片付けてよい問題ではなく、企業や資本主義の核心である利益と関わる問題である。資本主義の役割や目標を考え直し、他者を犠牲にして利益を得るようなあり方をやめ、われわれの志や目的をより高めることで、真のコストを考慮した公正な利益を得るべきである。

これは、企業のパーパス、すなわち存在意義は何かということにつながる。企業のパーパスとは、問題を生み出して利益を得ることではなく、利益を上げられるようなソリューションを人々と地球の問題に提供することである。簡単に言えば、他者に危害を加えることなく利益を上げることである。これが企業のパーパスであるとするならば、そこからおのずと、他者を犠牲にした利益ではない公正な利益、すなわち真の利益が出てくるはずである。

■ 日本の資本主義システム再設計~企業統治を中心に(宮島氏)

宮島氏

メイヤー氏のアイデアを日本に生かす場合にどのような点が問題となり得るだろうか。

現在、日本のコーポレートガバナンス改革は、(1)市場の規律を重視した改革を通じて、イノベーションと経済のダイナミクスを実現すること(2)ESG(環境・社会・ガバナンス)要素を含む社会の持続可能性に配慮する枠組みを創出すること――という二重の課題に直面している。

これを踏まえ、日本の資本主義を再設計するには、(1)パーパス経営を実現するための取締役会の改革(2)リスクを取る経営ができる報酬制度の設計(3)パーパス経営を支える所有構造の設計――が必要である。

◇◇◇

パネルディスカッションでは、中島研究主幹から、「害なき利(他者に害を及ぼさないような利益)」を上げる企業が生き残るような資本主義を目指すに当たり、公共セクターはそのような企業を促進する役割を担うとのコメントがあった。

また、社会問題解決のために何をしたらよいかとの参加者からの質問に対し、メイヤー氏は、ビジネスを始めるときに持っていたはずの問題解決のためのインスピレーションや想像力を持ち続けてほしいと応じた。

「2025年5月22日 No.3683」一覧はこちら