
髙岡氏
経団連は6月17日、東京・大手町の経団連会館で、金融・資本市場委員会資本市場部会インパクト投融資ワーキング・グループ(宮田千夏子座長)を開催した。政府の「インパクトコンソーシアム」のこれまでの活動成果と今後の方向性について、金融庁の髙岡文訓サステナブルファイナンス推進室長から説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。
■ インパクト投資の推進
「課題先進国日本」にあって、社会的課題の解決を成長のエンジンに転換するとの観点から、政府・金融庁として、事業革新等を通じて社会的課題解決と企業価値向上の双方の達成を目指す企業へ投資を行うことで一定の投資収益の確保を目指す「インパクト投資」を推進してきた。
2021年度には1兆円程度であった日本のインパクト投資は24年度に約17兆円と増加傾向にあるが、欧米と比べると規模は依然小さく、伸びしろがあるといえる。
金融庁は24年3月末、「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」を策定した。同年7月からは、投資家・金融機関、企業、NPO、自治体等の幅広い関係者が協働・対話を図る官民連携の「インパクトコンソーシアム」の四つの分科会((1)データ・指標(2)市場調査・形成(3)地域・実践(4)官民連携促進)において、事例や知見の共有等を行っている。
■ 各分科会の検討成果・今後の活動の方向性
1.データ・指標分科会
インパクトの測定・管理に実践的に活用できるデータ・指標の整備について議論した。
その成果として、既存のさまざまなデータベースを整理するとともに、企業・投資家等の関心が高い分野として「気候変動・生物多様性・環境保全」「健康・医療」「インフラ整備・都市開発」を特定したうえで、望ましいデータベースの基本的な考え方を示した。
今後はこの考え方に基づいて、既存のデータベースの情報を分類・整理した「インパクトデータベースの案内板」を試作するとともに、関係省庁と連携し、前述で特定した課題に応じた代表的なインパクト指標やベースライン値等の整理を検討する。さらに企業・投資家双方による活用促進に向けて、事例収集等にも取り組む。
2.市場調査・形成分科会
現状ではまだ事例が少ない上場株式へのインパクト投資に着目しつつ、未上場株式へのインパクト投資との接続の観点も踏まえて議論した。
その成果として、インパクト投資の定義や意義等を整理したほか、インパクトの測定・管理、インパクトの開示・対話、アセットオーナーによるインパクト投資に関する課題へのアプローチを整理するとともに、具体的な取り組み事例等を収集した。
今後はインパクトの価値創造ストーリーへの統合等の課題も踏まえつつ、インパクトの開示・評価等に関する事例研究や知見共有を行う。
3.地域・実践分科会
地域でインパクト創出に取り組む意義について議論するとともに、フィールドワークを通じて事業者や投資家へのヒアリングを実施した。また、経済的価値に直結しない自然資本や地域が有する多様な価値観の再発見といった、地域においてインパクトを意識することの意義や、地域企業を支援する金融機関の行動変容の必要性といったインパクト創出の実践に向けた課題等を整理した。
今後は金融に焦点を当てて、具体的事例を収集しながら地域におけるインパクト投資手法のポイント等を取りまとめる。
4.官民連携促進分科会
地域の課題解決に取り組むスタートアップ(インパクトスタートアップ)と自治体との連携促進に向けた課題と対応策について議論した。また、事業の進め方やスピード感が異なる両者が連携するためのノウハウ等を取りまとめた「実践ガイド」を作成した。
今後は、実践ガイドの普及や取り組み拡大に向けて発信する。
◇◇◇
意見交換では、分科会の討議メンバー企業から、「インパクト創出の取り組みは企業のパーパス(存在意義)を証明する機会と再認識した」との意見が出たほか、「インパクトデータベースの案内板」の試行版により、ステークホルダーの関心の高いインパクト指標が参照しやすくなることへの期待が表明された。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】