経団連は6月17日、経済法規委員会競争法部会(大野顕司部会長)をオンラインで開催した。公正取引委員会経済取引局取引部の亀井明紀企業取引課長(当時)、中小企業庁事業環境部の鮫島大幸取引課長(当時)から、下請代金支払遅延等防止法(下請法)および下請中小企業振興法(下請振興法)の改正法(5月16日成立、2026年1月1日施行予定)について、それぞれ説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 公取委説明

亀井氏
下請法が改正され、中小受託取引適正化法(取適法)に改称された。改正の主なポイントは次の6点である。
第一は、協議を適切に行わない一方的な代金額の決定の禁止である。昨今あらゆるコストが上昇しているなかで、協議の求めがあってもそれに応じずに、また必要な説明を行わずに、一方的に価格を据え置くことなどが課題となっている。そうした行為に対応していけるよう、従来の買いたたき規制に加え、交渉プロセスに着目した規定を新設した。
第二は、手形払いなどの禁止である。受注者に資金繰りの負担を求める商慣習の課題を解決するため、対象取引における手形払いを禁止し、電子記録債権やファクタリングを利用する場合も支払期日までに全額の回収が困難な場合にはそれらを認めないこととした。
第三は、運送委託の対象取引への追加である。これまで運送事業者間の取引については対象であったが、契約にない荷役や荷待ち行為を無償で行わせるなどの課題を踏まえ、新たに発荷主と運送事業者間の取引も対象とすることとした。
第四は、従業員基準の追加である。現行の基準に用いる資本金は、事業者において増減が可能であり、本法の適用を回避するいわゆる下請法逃れにも対応していく必要があった。そこで、資本金基準に加えて従業員数を基準とする規定を導入し、どちらかの基準を満たす場合には本法の対象とすることとした。
第五は、面的執行の強化である。公取委、中企庁、事業所管省庁の連携を強化するため、事業所管省庁の主務大臣においても本法に基づき指導・助言を行える権限を付与した。また、中小受託事業者が申告しやすい体制を整備するため、報復措置の禁止の申告先として事業所管省庁の主務大臣を追加した。
第六は、「下請」等の用語の見直しである。時代の情勢変化に沿った用語にするため、法律名の改称のほか、「親事業者」を「委託事業者」、「下請事業者」を「中小受託事業者」、「下請代金」を「製造委託等代金」などに改めた。
■ 中企庁説明

鮫島氏
下請振興法も改正され、受託中小企業振興法に改称された。改正の主なポイントは次の5点。
第一は、多段階の事業者が連携した取り組みへの支援である。サプライチェーンの取引段階が深くなるにつれて、価格転嫁の割合が低い。このため、2段階以上の取引段階にある事業者による振興事業計画を承認および支援の対象とした。
第二は、国および地方公共団体の責務規定の新設である。地方公共団体は受託中小企業の振興に必要な取り組みの推進などに努めること、国・地方公共団体等が密接な連携の確保に努める旨を新たに規定した。
第三は、主務大臣の権限強化である。主務大臣が繰り返し指導・助言を行っても、取引方針が改善されない事業者に対して、具体的な措置の実施を促すことができる規定を新設した。
第四は、適用対象の追加である。トラック運送業は全業種のなかで価格転嫁率が最下位であり、資本金の大小関係がない取引でも価格転嫁を推進する必要がある。このため、発荷主と運送事業者の取引や、従業員の大小関係がある委託事業者を適用対象に追加した。
第五は、「下請」という用語の見直しである。下請法改正と同様の用語の変更を行った。
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公取委と中企庁は、改正法の施行に向け、運用基準など下位法令の見直しに着手しており、経済界には、取引適正化に向けて引き続き協力を求めている。
【経済基盤本部】