
小泉氏
経団連は8月4日、東京・大手町の経団連会館で日本ロシア経済委員会(橋本剛委員長)を開催した。ロシア・旧ソ連諸国の軍事・安全保障政策を研究している東京大学先端科学技術研究センターの小泉悠准教授から、ロシア・ウクライナの戦況と今後の見通しについて説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 最新の戦況
2025年春以降、ロシアはウクライナへの攻勢を強め、24年を上回るペースで、ウクライナの領土を占領している。24年の1年間で、ウクライナの領土の約0.7%が占領された。25年は、約1.2%を占領されかねない情勢である。
■ 双方の継戦能力
戦争は消耗戦に突入しており、双方の継戦能力が戦況を左右する。ロシアでは、少なくとも12万人が戦死し、死傷者合計では70万人という見方もある。現在ロシアでは追加動員はせず、高い報酬を提示して兵士を募っている。このため、少数民族の居住する相対的に貧しい地域から、より多くの兵士が戦地に赴いている。ウクライナの戦死者数については正確な情報が少ない。
ロシアではソ連時代から備蓄していた砲弾などが豊富にあり、この備蓄を使用していたが、23年ごろには底を突いた。それ以降は自国の生産では砲弾の消費を賄えず、他国からも調達している。現状、ロシアに対して最も多くの砲弾を供給しているのは、北朝鮮とみられている。
一方、ウクライナには一定程度の軍需産業はあるものの、欧米からの供給に大きく依存している。欧米も冷戦後に生産能力を縮小した影響で砲弾が不足しており、第三国からも調達している。
戦車も消耗が激しい。ロシア軍だけで約4000両の戦車が破壊された。新造戦車だけでは足りず、古くなって保管されていた予備戦車を修理して使用している。衛星写真の分析から、最近では極東の基地に保管されていた戦車まで使い始めていることが分かるが、そこから最前線まではかなり距離がある。そのことからも、ロシアが戦車不足にかなり苦しんでいる様子が見て取れる。
■ 新興技術の影響
今回の戦争では、戦場におけるドローンの有用性が本格的に証明された。従来の大型の軍用ドローンよりも民生用小型ドローンが効果を発揮している。
ロシアは、イランの設計を基にした簡易巡航ミサイルのような自爆型ドローンを月間5000機も生産できる体制を整えている。空襲に使われるドローンの数は以前とは比べものにならないほど増えている。
一方、ウクライナでは、無人水上艇(USV)を活用し、黒海に展開していたロシア艦隊をクリミア半島の西側からほぼ追い出すことに成功した。
■ 今後の見通し
この戦争は、しばらく続くと考えられる。理由は二つある。
第一は、ロシアとウクライナが「譲れない価値観」を巡って争っていること。どちらにとっても簡単に妥協できる問題ではない。
第二は、戦況がまだ決定的ではないこと。ロシアはウクライナに侵攻しているが、明確な勝利を収めたとはいえない。一方で、戦争に係る負担はどんどん重くなってきている。今の規模・烈度の戦闘は2~3年で継続できなくなるだろうが、より小規模な戦闘であれば、さらに長く続く可能性がある。
【国際経済本部】