経団連は8月5日、米国の投資コンサルティング企業であるオブザーバトリー・グループのブランドン・バーフォード国際政策分析ディレクターとネイト・ホドソン シニアワシントンアナリストが来日する機会を捉え、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。通商政策を中心としたトランプ政権の政策動向や、トランプ政権下の米国の政治情勢等について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 通商政策の動向(バーフォード氏)

7月下旬に妥結に至った日米貿易交渉は成功といえる。日本は対米直接投資の多さを前面に出し、米国側に好印象を与える交渉姿勢で、関税率の引き下げを実現した。トランプ大統領が求めていたのは政治的な勝利と目を引く数字であったが、日本政府は過度に無理をせず、それでもトランプ大統領が「史上最大の貿易協定」と呼ぶ結果で妥結した。
通商拡大法232条に基づく品目別関税は、相互関税以上に長期的な影響を及ぼすと考えられる。仮に2028年の大統領選挙で民主党が政権を奪還しても、品目別関税が維持される可能性は高い。これは雇用創出、米国への生産回帰、強靭なサプライチェーン確立を目的とした関税措置が、労働組合の強い支持を受けているためである。
トランプ政権はAI、造船、エネルギーを中核に米国製造業の再建を目指しており、日本企業に大きなビジネスチャンスがある。関税を逆手に取って米国内での生産に切り替えれば、競争上優位になる可能性がある。トランプ大統領は米国で事業を始めた企業を国籍で差別することはない。雇用を創出し、米国で納税し、米国産原材料を活用して経済に貢献する企業であれば、歓迎されるだろう。
■ 今後の米国の政治情勢の行方(ホドソン氏)

20年の大統領選挙では、第1次トランプ政権における混乱の正常化を求め、バイデン氏が大統領に選ばれた。しかし、物価上昇や移民増に加え、国民が求めていないリベラルな政策を打ち出したことで、今回のトランプ大統領選出に至った。
第2次トランプ政権の発足から約半年で、OBBBA(One Big Beautiful Bill Act=大きく美しい一つの法案)を成立させ、トランプ減税の恒久化や防衛費の増額等を実現した。
第1次政権時と異なり、今回は議会との調整が円滑に進んでおり、政権運営に組織的な安定感がある。
今後は、OBBBAの着実な実施と国民の理解促進が課題である。チップや残業代の非課税措置、65歳以上の納税者の所得控除拡大などは、26年の中間選挙に向けて支持を集める政策と位置付けられている。
ただし、議会では上下両院共に共和党と民主党の僅差が続いており、新たな立法は容易ではない。そこで、OBBBAによる税制優遇と、環境や金融の規制緩和を組み合わせ、景気の下支えを図るだろう。移民政策も有権者の支持につながるとみている。
第2次トランプ政権では、17年のような全国的な反トランプデモは発生していない。民主党の支持率は約40年ぶりの低水準であり、不支持は6割に達していることに加え、内部対立も表面化している。26年の中間選挙は、関税の影響も含めた物価動向や、OBBBAへの評価、経済動向が行方を左右するとみている。
【国際経済本部】