経団連と経団連事業サービス(筒井義信会長)は、経営法曹会議協賛のもと7月10、11の両日、「第127回経団連労働法フォーラム」を開催した(8月7日号・9月4日号既報)。今号では、2日目のワークショップから、弁護士の基調説明と参加者の質問を紹介する。

ワークショップの模様
■ 経験者採用を巡る諸問題(石井妙子弁護士、三上安雄弁護士)
経験者採用の課題の一つにミスマッチの回避がある。ミスマッチの内容として、本人の適性・能力・経験や健康状態等が考えられるため、採用時の情報取得が重要となる。法令等で取得制限のある情報や、要配慮個人情報については、(1)採用後の業務遂行に必要不可欠なこと(2)収集目的――を示したうえで本人同意を得て収集することが必要である。
加えて、採用後の労働契約の解消やその後の紛争の可能性を見据え、期待する能力・知識等の内容・水準を雇用契約の締結時に明確化するとともに、職務経歴書やテスト等を通じて確認すべきである。採用後に適格性の欠如を示す問題事象があれば、記録に残しておくことも欠かせない。
参加者からは、経験者採用における試用期間の制度設計と運用時の留意点、採用時における病歴や賞罰の確認の可否などの質問が寄せられた。
■ 障がい者雇用を巡る諸問題(松下守男弁護士、後藤真孝弁護士)
労働者から自己の障がいに関する情報を十分に得られない場合、事業主の合理的配慮の提供義務の履行と労働者のプライバシー侵害防止等との兼ね合いから、障がい者情報の取得・利用が問題となる。
厚生労働省の指針やQ&Aによれば、プライバシーに配慮しつつ、雇用管理上必要な範囲での障がい状況等の確認は障がい者差別に該当しない。
障がい者の把握・確認方法は、全労働者へのメール送信等の画一的方法による申告の呼びかけが原則となる。合理的配慮の内容は、障がい者の意向を尊重しつつ、事業主に過重な負担にならないかも考慮しつつ確定する必要がある。
参加者からは、障がい者に該当するか不透明な場合や、労働者が障がいを申し出ない場合における事業主の対応方法などの質問が寄せられた。
■ 適正な人材活用に資する人事評価(真田昌行弁護士、岡崎教行弁護士)
年功序列型から成果主義型へ賃金制度を移行した場合、評価によって賃金が下がる可能性がある。そのため、就業規則の不利益変更に該当すると判断した裁判例があり、移行に当たっては、労働契約法10条に留意する必要がある。
成果主義における人事評価に当たっては、適切な運用はもとより、公正・透明な評価制度を設計・開示し、人事考課プロセス全体の公正さを整備する必要がある。この点は、最近注目を集めているAIによる人事評価の導入に際しても留意すべきである。
参加者からは、(1)労働組合に加入しない管理職に対する制度変更の説明方法(2)成果主義型賃金制度における賃金の上昇・減少幅に関する留意点(3)人事評価に対する不服申立制度を設けることの是非や具体的な制度設計のあり方――などの質問が寄せられた。
【労働法制本部】