
宮下氏
経団連は7月31日、東京・大手町の経団連会館で、労働法規委員会労働安全衛生部会の関係ワーキング・グループによる合同会合を開催した。厚生労働省労働基準局の宮下雅行労災管理課長から「労災保険制度の在り方に関する研究会中間報告書」の説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 背景
労働者災害補償保険(労災保険)制度は1947年の制定以降、累次の制度改正を行いつつも、制度全体を検証する機会を得ないまま今日に至る。
そこで、学識経験者で構成する研究会では、同制度が抱える現代的・制度的な課題を包括的に議論し、7月30日に中間報告書を取りまとめた。
■ 中間報告書の要点
中間報告書は、労災保険制度を、(1)適用(2)給付(3)徴収――の場面に区別したうえで、各論点について、「見直しが必要と思われる点」「さらなる議論や検証が必要と思われる点」「労使での議論が期待される点」等の検討結果を整理している。これらのうち、早期の見直しや検討着手が求められた主な事項を紹介する。
1.家事使用人
私家庭と労働契約を結び、その指示のもと家事一般に従事する「家事使用人」は労働基準法(労基法)の適用対象ではなく、したがって労災保険法も適用されない。労働政策審議会(労働条件分科会)における検討の結果、仮に労基法の適用除外規定を見直すこととなる場合、使用者たる私家庭(私人)が同法の災害補償責任を負い、労災保険法を強制適用することが適当と整理された。
ただし、履行確保の可能性や、保険関係の手続きに係る事務負担の軽減等、運用上の課題の検討が必要とも指摘された。
2.暫定任意適用事業
個人経営の農林水産業を対象とする暫定任意適用事業について、労災保険法の強制適用に向けて検討を進めることが適当と整理された。その際、農林水産事業者の理解促進や、保険料の徴収上の課題の検証、零細事業主の事務負担の軽減等への十分な配慮が必要とも指摘された。
3.特別加入制度
労災保険制度には、労働者に準じて保護するにふさわしい者を一定要件下で特別に加入を認める制度(特別加入制度)が存在する。特別加入の対象者のうち、フリーランスに代表される第2種特別加入者は、特別加入団体の構成員となり加入手続きを行う必要がある。
この特別加入団体に期待される労災防止教育等の役割について、労使を含めたさらなる議論が必要である。また、団体の承認や取り消しの要件を法令上明記しておくことが適当と9月9月整理された。
4.遺族(補償)等年金
労働者の業務上の死亡によりその遺族に支給される年金は、配偶者が夫の場合に年齢要件等を設けている。夫と妻との支給要件の差異について、男女の就労状況や家族の在り方の変化を踏まえると、合理的な理由は見いだせず、解消することが適当と整理された。
5.消滅時効期間
労基法の災害補償請求権の消滅時効期間(2年間)と労災保険法の給付請求権に係る消滅時効期間(短期給付=2年間、長期給付=5年間)の見直しの必要性等を検討したが、統一的な結論を得るに至らず、労使を含めたさらなる議論が必要と整理された。
6.メリット制
労働災害の発生状況に応じ、一定の範囲内で労災保険率を増減させる「メリット制」は、同制度の目的である、事業主の負担の公平性確保や災害防止努力の促進という観点から、一定の意義・効果が認められ、同制度の存続と適切な運用が適当と整理された。
7.事業主への情報提供
労災保険給付請求は、被災労働者やその遺族が労働基準監督署に対して行う手続きであり、被災労働者が所属する事業場の事業主には請求の結果は通知されない。
この点について、事業主による早期の災害防止対策や、政府による労働保険料の認定決定に対する事業主の不服申し立て等に際しての手続き保障の観点から、労災保険給付の支給(不支給)決定に関する事実が事業主に情報提供されることが適当と整理された。
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以上の事項等について、労働政策審議会で議論し、必要に応じて制度改正に取り組んでいく。
【労働法制本部】