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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年11月20日 No.3706 セミナー「地経学とは何か」を開催 -経団連総合政策研究所

鈴木氏

経団連総合政策研究所(筒井義信会長)の技術と国際秩序プロジェクト(上席客員研究委員=鈴木一人東京大学公共政策大学院教授/国際文化会館地経学研究所長)は10月21日、東京・大手町の経団連会館で、セミナー「地経学とは何か~最新の国際情勢を踏まえて」を開催した。経済安全保障を巡る課題について、鈴木氏が解説した。

鈴木氏は冒頭、第2次世界大戦後の国際秩序を支えてきた「自由貿易による平和」の前提が大きく揺らいでいると指摘。各国が経済を政治目的のために利用する「経済の武器化」が進み、国家間の相互依存がむしろリスクを高める状況にあると述べた。

「相互依存は戦争が起きるのを難しくさせるが、依存を断ち切るときに大きな痛みを伴う。それが“相互依存のわな”だ」とし、経済安全保障とは、こうした依存関係をいかに管理し、戦略的自律性を確保するかにあると強調した。

そのうえで、供給網の強靭化を目的とした「スモールヤード・ハイフェンス(守るべき分野を絞ったうえでの厳格な防護策)」の考え方を紹介。

日本が中国へのレアアース依存を従来の約90%から約50%に低下させ、オーストラリアやベトナムなどへの供給元の多様化を進めた事例を挙げ、「多元化は保険である一方でコストを伴う。政府と企業がどのようにその負担を分担するかが重要」と述べた。

経済的影響力を左右する要素として「不可欠性」の概念を提示。これは他国にとって代替困難な依存関係を持つことで、地経学的な抑止力を形成するものだと説明した。

不可欠性には、素材や部品、例えば中国のレアアースなどにみられる「モノの不可欠性」と、巨大な市場規模に基づく「市場の不可欠性」があり、近年は後者の重要性が増していると分析した。

最後に鈴木氏は、今後、日本が「不可欠性」を国家戦略として推進することの必要性を指摘。まず進めるべき「モノの不可欠性」については、日本にしか作れない製品を追求するとともに、それを支える技術・知的財産・ノウハウなどの漏洩を防止することが必要と強調した。

高市早苗内閣総理大臣は経済安全保障担当大臣時代、情報管理や技術流出防止を重視し、セキュリティ・クリアランスの問題に熱心であった人物であり、高市新政権はモノの不可欠性の重要性を理解していると評価した。

「市場の不可欠性」については、日本単体の市場規模は限定的であることから、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)のように共通ルールを通じて市場圏を形成することが重要と強調。ルールの形成当初から主導的立場を確保することが、国益を守りつつ国際的影響力を高めるカギになると語った。

安定した国際関係とルールに基づく秩序の構築を通じ、周辺諸国との協調のなかで日本の戦略的地位を確立すべきと締めくくった。

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