経団連は10月30日、東京・大手町の経団連会館で労働法規委員会労働法企画部会労働時間制度等検討ワーキンググループ(田中輝器座長)を開催した。厚生労働省労働基準局の先﨑誠労働関係法課長らから、組織再編に伴う労働関係の調整に関する部会(組織再編部会)での検討の内容について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 組織再編に伴う労働関係の法制度の現状
企業組織の再編のうち、合併、会社分割、事業譲渡は、労働契約の主体等の変動により労働者に影響を与え得る。
合併は、会社法に基づき、消滅する会社の権利義務の全部が存続する会社等に包括的に承継されることとなり、労働契約が存続会社等に移転する際に労働者の同意は不要である。
会社分割は、労働契約承継法に基づき、事業の全部または一部の承継に当たり、承継される事業に主として従事している者で承継の対象とならない労働者、主として従事していない者で承継対象となる労働者には異議申出権を付与しつつ、承継される事業に主として従事している労働者については、分割後の会社への労働契約の承継に際し、個別の同意は不要とされている。
これらに対し事業譲渡は、譲渡会社から譲受会社へ労働契約を承継するに当たり、民法の規定に基づき、対象となる労働者の個別の同意が必要である。
組織再編における労働者保護を図る観点から、事業譲渡と合併については、事業譲渡等指針において留意すべき事項が示されており、会社分割については、労働契約承継法および同法指針等において、労働者等に通知等を行う手続きが規定されている。
■ 企業価値担保権の創設を踏まえた検討
こうしたなか2024年、事業性融資推進法が成立し、有形資産に乏しいスタートアップ等の幅広い成長意欲のある事業者の資金調達の円滑化を目的に、将来キャッシュフローを含む事業全体を担保とすることで、事業の将来性に基づく融資を後押しする制度である「企業価値担保権」が創設された。
諸外国の事業の将来性を見た融資実務を参考に、金融機関による伴走支援を促す制度として設計されており、事業者の業況悪化時に、経営改善支援等を通じ、業況回復等を支えることが期待される。
仮に事業継続が困難となり、融資の返済も滞った場合は、担保権の実行も想定される。実行手続では、原則、事業の一体性を維持したまま買受人に譲渡される(組織再編を伴う)。
そこで労働者保護の観点から、事業性融資推進法の審議に際する国会の附帯決議では、事業譲渡等指針に関し、企業価値担保権の創設を踏まえた必要な見直し等を行うこととされた。
これを受け、労働政策審議会では、組織再編部会が設置され、検討が開始された。
■ 事業譲渡等指針の見直しの内容
組織再編部会の検討を経て示された事業譲渡等指針の見直し案では、企業価値担保権を運用する場面ごとに、担保権実行・譲渡先選定等を担う管財人や会社が留意すべき事項等を追記している(図表参照)。
(図表のクリックで拡大表示)
その内容は、企業価値担保権の創設に際する検討が行われた金融審議会のワーキンググループの報告書や、事業性融資推進法および同法ガイドラインを踏まえている。
主な追記内容には、(1)管財人が職務遂行に当たり善管注意義務を負うこと(2)担保権設定時に会社が行うことが望ましい事項(3)管財人が担保権実行・事業譲渡時に行うことが適当と考えられる労働組合等や個々の労働者とのコミュニケーション――等が含まれている。
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そのほか本会合では、事業譲渡等指針の見直し案への対応について審議し、了承した。
同見直し案については、11月7日の第6回組織再編部会において「おおむね妥当」との答申がなされている。これを受け、26年5月25日に予定される事業性融資推進法の施行に向けて、同見直し案のとおり、事業譲渡等指針が改正されるとともに、事業者や金融機関等の関係者に周知することが予定されている。
前述の国会附帯決議に基づき、組織再編全般に関する労働者保護の諸問題についても、実態把握と検討がなされる予定であり、26年度から同部会で議論が継続される見込みである。
【労働法制本部】
