1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2026年4月2日 No.3724
  5. シンポジウム 経済安全保障時代の企業競争力

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2026年4月2日 No.3724 シンポジウム 経済安全保障時代の企業競争力 -経団連総合政策研究所

経団連総合政策研究所(筒井義信会長)の経済安全保障と知的財産研究プロジェクト(研究主幹=渡部俊也東京科学大学副学長)は3月4日、シンポジウム「経済安全保障時代の企業競争力~関税リスクを緩和するビジネスモデルへの変革」を東京・大手町の経団連会館で開催した。

渡部研究主幹、上野一英研究委員(TMI総合法律事務所パートナー・弁護士)がそれぞれ講演した後、渡部研究主幹がモデレーターとなり、東京大学法学政治学研究科の増見淳子教授、アルプスアルパインの中村麻紀氏(日本知的財産協会常務理事)、長澤健一研究副主幹(大阪工業大学客員教授)を加えた5人でパネル討議を行った。概要は次のとおり。

■ 経済安全保障と知的財産の論点(渡部研究主幹)

渡部研究主幹

近年、中東やウクライナ、台湾を巡る地政学上の緊張が続いている。通商においても経済の安全保障化(ジオエコノミクス)の動きが見られ、中国による対日輸出規制など、経済手段を用いた対応も生じている。こうした国際環境の変化のなか、経済安全保障を巡る議論が進められている。

本プロジェクトでは、(1)産業エコシステム(2)AIなどデュアルユース新興技術(3)国際標準・知的財産ライセンス(4)スタートアップ(5)企業経営――の五つの視座を設定している。

これらの環境変化と問題意識を踏まえ、今回は(3)に関わる論点として、企業の競争力や経済安全保障を支える無形資産の役割について検討する。

日本企業は知的財産をモノに組み込む商慣行が中心で、その価値が可視化されにくい。一方、欧米では知的財産を分離し、ライセンスとして活用するビジネスモデルが一般化している。

このような観点から、知的財産の分離・可視化は、企業価値の向上に資するとともに、外部環境への対応力強化にもつながると考えられる。

■ 知的財産価値のビジネスモデルへの反映~関税を考慮した検討(上野研究委員)

上野研究委員

関税の算定構造と知的財産の取り扱いを整理する。関税額は関税分類(HSコード)、原産地、取引価格に基づいて決定され、特にインボイスに記載された価格が課税標準の基礎となる。

従来、関税は通関実務に委ねられる手続き的問題として扱われがちだったが、近年は事後調査や追徴課税も増加しており、関税は実務上の手続きにとどまらず、戦略的に管理すべき領域となっている。

一方、世界貿易機関(WTO)の枠組みでは、ソフトウエアやコンテンツ配信など電子的送信による無体物には原則として関税が課されない。ロイヤリティやライセンス料については、輸出販売の条件性や支払い先との関係等により課税対象に含まれるかが判断される。

判例においても、製造に直接関係する費用は加算対象とされる一方、広告費や商標ロイヤリティは輸入後の販売活動に関わるものとして除外されるなど、個別事情に応じた判断が示されている。

こうした制度のもと、知的財産の価値をモノから分離し、ライセンス等として取引設計に組み込むことが求められる。これは関税負担の抑制にとどまらず、無形資産の価値の可視化や収益化を通じて企業価値の向上にも資するものであり、関税と整合的なビジネスモデルの再設計が必要となる。

■ パネル討議「知的財産の価値をいかに企業経営へ反映させるか」

増見氏

中村氏

長澤研究副主幹

関税と知的財産を巡る論点について多角的な議論が行われた。

増見氏は、関税制度と知的財産の関係について、法制度・実務の観点から整理し、コーポレートガバナンス・コードも踏まえ、企業における無形資産の認識・開示およびマネジメントの重要性を指摘した。あわせて、その価値を収益構造や事業モデルに反映させる必要性を示した。

中村氏は、企業経営の立場から、知的財産の価値を切り分けて明確化したうえで、それを収益構造や事業モデルに反映させる重要性を述べた。従来のモノ売り中心の発想にとどまらず、収益の取り方やビジネス設計の見直しが必要と指摘した。

長澤研究副主幹は、国際環境の変化を踏まえ、知的財産やビジネスモデルの問題を企業戦略にとどめず、サプライチェーンや安全保障との関係で捉える必要性を示した。制度、企業、地政学を横断的に捉える視点の重要性も述べた。

◇◇◇

経済安全保障と知的財産研究プロジェクトは同日、ワーキングペーパー「知的資産価値のビジネスモデルへの反映」を公表した。

知的資産価値のビジネスモデルへの反映
https://www.keidanren.or.jp/pri/theme/data/WorkingPaper2_20260304.pdf

「2026年4月2日 No.3724」一覧はこちら