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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年8月3日 No.3326 トランプ税制改革の動向<下> -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹 青山慶二

今回は、トランプ税制改革のパッケージに明示されないものの、海外企業の関心が深い国際課税の諸提案について、その趣旨および問題点を検討する。
前回:トランプ税制改革案の沿革および概要)

1.国境税調整

(1)なぜ関心を呼ぶのか

4月のトランプ税制改革案のリストには明記されなかったものの、各国の多国籍企業が最大の関心を抱いていたのは国境税調整の採否であった。米国市場向け輸出の税負担が高まるなら、グローバルバリューチェーンの再構築は余儀なしとの懸念を持つ輸出企業は多い。なお、議会へのヒアリング等では、立法過程で原案(2016年の下院共和党案)どおりの立案は困難としていた。

(2)制度の概要

国境税調整は、通常、間接税である付加価値税(VAT)について、輸出に際して仕入れにかかる税額を還付する仕組みを指している。仕向地主義のもとで財貨・サービスの消費地に課税権を集約することによって、国際的な競争中立性を保障する考え方である(WTOルールとの整合性は確認済み)。

一方、下院共和党案で提示された国境税調整は、法人所得の算定に際して、輸出売り上げを益金から除外し、輸入仕入れを損金から除外する仕組みとされている。この結果、米国内で製造して国外消費地に販売する事業については、付加価値税の輸出還付と同様の税負担軽減の効果が見込まれ、トランプ政権の公約である米国製造業の競争力改善と雇用回復への貢献が期待されていた。

ただし、消費税は財貨・サービスのあらゆる付加価値について国境税調整を行うのに対し、支払国内賃金は損金算入されたままであるため、下院共和党案では「人件費免除付きの控除方式付加価値税」と呼ぶ向きもある。

(3)税制としてのメリット・デメリット

付加価値税を主たる財源とするEU諸国等との競争条件均衡化という効果に加えて、米国のように国内に大消費マーケットを持ち生産の海外移転度の高い国(輸入超過の国)が国境税調整を伴う仕向地ベース課税を導入すれば、当面の増収効果は大きく法人税率引き下げの有力な財源となる。あわせて、タックスヘイブンや移転価格の利用によるアグレッシブな租税計画が無意味になるという意味で、究極的な税源浸食・利益移転(BEPS)対応策との積極的評価も見いだされる。

一方、輸入に依存する業界等がコスト上昇に直面する(敗者)という意味で、勝者(輸出業者)との間に不公平が生じ、税制の中立性が損なわれるとの懸念が指摘されている。経済学者は、20%の法人税率のもとでの国境税調整を実施すれば、直ちに25%のドル高の為替調整が働き、物価水準に影響はないと指摘しているが、相手国のある為替調整は実現の信頼性やタイムラグの点で不確実との声も根強い。また、為替調整がもたらす資産価値へのインパクト(米国人が保有する外国資産、外国人が保有する米国資産等)も税制上看過できない。

(4)国際ルールとの抵触

WTOのもとでのGATT3条は、輸入品の課税は国産品の課税より重くてはならないと規定している。下院共和党案では、輸入品についてはその人件費部分を含めて課税対象とするのに対し、国産品は人件費控除が認められており、差別的取り扱いであるとの指摘がある。

これに対し、国境税調整は「付加価値税導入+給与税の減税」と経済的には同一と理解でき、各パーツはWTOルールの違反ではないとの反論も紹介されているが、法的評価としては苦しげにみえる。

租税条約違反とならないかどうかは、仕向地主義キャッシュフロー税の制度設計いかんにかかってくるが、もし付加価値税ではなく所得課税として立法化されると、国境税調整は、PE課税の原則や無差別原則の違反のおそれがあり、仲裁へ持ち込んでも米国が敗訴するリスクは高いとの指摘もある。

2.利子控除制限

下院共和党案では、資本投資コストの即時控除を認めることのいわば代償として、純支払利子の損金算入を否認するとしていた。国内外の批判等を斟酌し、原案どおり税制改正案に含められる可能性は低いとヒアリングからは判断されたが、現行法より厳しい一定率のキャップが利子控除に課される可能性は残されているようである。

原案どおりとなる可能性が低いと考えられる背景として、金融業界のみならず借り入れに依存する不動産業界等や中小法人からの申し入れに加え、海外からは、BEPSのもとでの国際協調と乖離することへの懸念も認められた。なお、米国では一定の負債を資本とみなす内国歳入法385条に基づく規則の改定が最近行われ、利子控除制限強化に対する批判が高まっていたという事情も認められる。

◇◇◇

※ 参考「政権・議会幹部による共同声明」(2017・7・27)
7月27日、財務長官等政権幹部および上下両院の共和党議会指導部の連名による税制改革法案起草方針に関する共同声明が発表された。そこでは、改革法の立案は昨年の下院共和党案に忠実に行うのではなく、同じ目的を達成する実行可能なアプローチによることとし、特に国境税調整については今回は見送るとしている。

【21世紀政策研究所】

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