1. トップ
  2. Action(活動)
  3. 週刊 経団連タイムス
  4. 2017年8月10日 No.3327
  5. ロシアゲート疑惑で揺れるアメリカ政治<上>「疑惑」の本質

Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年8月10日 No.3327 ロシアゲート疑惑で揺れるアメリカ政治<上>「疑惑」の本質 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究副主幹 前嶋和弘

アメリカ政治を大きく揺るがしているロシアゲート疑惑(※)とはいったい何なのか。そして疑惑解明を含め、今後のアメリカ政治はどう展開していくのか――。2回にわたってこのロシアゲート疑惑について解説する。

■ 3つの疑惑

疑惑は具体的には3つある。1つ目は選挙妨害の可能性であり、昨年の選挙戦におけるロシアによる民主党全国本部などに対するサイバー攻撃にどれだけトランプ陣営が組織的に関わっていたかが焦点となっている。

7月半ばには、トランプ大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏が昨年の大統領選期間中、民主党のヒラリー・クリントン候補に不利な情報を得るためにロシア人弁護士と面会していたことを本人が認めている。この面会には、ジュニア氏に加え、大統領の娘婿クシュナー氏、そして当時の選対本部長だったマナフォート氏というトランプ陣営のトップ3人が同席したほか、元ロシア情報機関工作員の男性ロビイストが出席していたことも明らかになっている。また、この事実が明るみに出た直後にジュニア氏が出した声明の文面を、トランプ大統領自身が考えていたことも8月初めに報じられた。

2つ目の疑惑は、トランプ氏が大統領就任後、前述のロシアの選挙戦介入の一連の捜査を妨害しようとしたのではないかという司法妨害(捜査妨害)の疑いである。一連の捜査をしてきたコミーFBI長官に対し、トランプ大統領は今年2月、当時大統領補佐官だったフリン氏に対する捜査を中止するよう要請したが、コミー長官は拒否。その後も捜査を続けた長官は5月9日にトランプ大統領に更迭された。この一連の解任劇が司法妨害ではないかという見方である。

さらに、コミー氏更迭後、本格的な捜査を進めるために任命されたモラー特別検察官に対しても、トランプ大統領は「不当な捜査だ」とことあるごとに牽制している。特別検察官の解任は司法長官に権限がある。セッションズ司法長官自身がロシア大使と選挙戦中に接触していたため、捜査には関与しないと決めているが、セッションズ長官のこの判断そのものに対し、トランプ大統領は強く非難を続けている。それもあって、7月にはセッションズ長官の更迭も噂されていた。

もし、トランプ大統領が新長官を任命し、その長官がモラー特別検察官を解任するようなことがあれば、ウォーターゲート事件の渦中の一大スキャンダルとなった1973年のコックス特別検察官の解任劇の再現となり、国民世論が黙ってはいない可能性もある(当時のニクソン大統領は司法長官と司法副長官の2人を辞職に追い込み、新しく任命した司法長官代理にコックス特別検察官を解任させた)。

3つ目の疑惑は、トランプ大統領が5月にロシアのラブロフ外相とホワイトハウスで会談した際、イスラエルから得た秘密情報を同外相に伝えてしまったという機密漏洩疑惑である。内容はイスラム国によるラップトップパソコンを使った航空機テロ計画の情報だったとされている。これが事実ならイスラエルの諜報関係者の命を危険にさらしてしまうだけではなく、「同盟国の情報を簡単に漏らすような国」というレッテルが貼られてしまう。特に「選挙で助けてもらった」という疑惑があるロシアに対して見返りとして情報漏洩をしているのではないかという見方もあるため、「国家反逆罪」と判断される可能性もある。

■ ロシアゲート疑惑の本質

この3つの疑惑に共通するのは、ロシアという外国がアメリカの選挙や政権運営に不正に関与しているのではないかという疑惑だけではなく、世界の超大国であるアメリカの大統領としての正統性そのものに対する疑念である。選挙過程から政策運営まで、そもそもこのような人物が大統領となっていいのかという疑念であろう。この疑念こそ、ロシアゲート疑惑の本質といえる。

ただ、あくまでもこの疑惑が事実かどうか、つまり「クロ」であるかどうかは、現時点ではまだわからない。というのも、それぞれの疑惑は現時点ではあくまでも、メディア主導であり、特別検察官の捜査や議会での調査もまだ始まったばかりであるためだ。報道で疑惑が非常に大きくなっている背景には、トランプ大統領のことを好ましく思っていない行政府内の職員からのリークが連日のように続いているという事実がある。そのこと自体が異常といえるものの、現時点ではロシアゲート疑惑という大きなパズルのピースはまだ埋まっておらず、その疑惑というパズルの絵もまだ読み取れないのが現状である。

次号では、ロシアゲート疑惑解明についての今後の展開を展望する。

※ 1970年代のウォーターゲート事件以来、アメリカでは政権が関与する陰謀や疑惑が浮上すると、ウォーターゲート事件にちなんで「○○ゲート」と呼ぶことがメディアで定着している。今回の場合、いくつかの疑惑がどれもロシアにつながっているため、「ロシアゲート」疑惑といわれている

【21世紀政策研究所】

「2017年8月10日 No.3327」一覧はこちら