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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年9月28日 No.3332 米国税制改革の行方 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究副主幹(上智大学教授) 前嶋和弘

アメリカ・トランプ政権の最重要公約の1つであったオバマケア改廃についての立法化が絶望に近い状況になるなか、次の目玉となる税制改革の行方はどうなるのだろうか。オバマケア代替案の頓挫に焦点を当てた前回に続き、今回は税制改革とその行方を中心に解説する。

■ 税制改革の困難さ

最初の試金石であったオバマケアの改廃が暗礁に乗り上げた状態であるため、次の税制改革の先行きはかなり不透明だ。

現在、議会の共和党関係者等の間で議論されている税制改革は、1986年のレーガン政権期以来の大型のものとなるとみられている。トランプ政権が公表した減税案では、連邦法人税率を現在の35%から15%に引き下げるとしている。ただ、あまりにも大胆な案であるため、議会の共和党指導部は法人税については20%台への引き下げにとどめる方針を明らかにしており、日本時間9月25日未明の段階で、トランプ大統領はこの提案を受け入れる可能性を示している。また、個人所得税の最高税率を39.6%から35%に引き下げることも大統領に示されるといわれているが、政権自体が4月に提示した数字とはいえ、トランプ大統領の当初の主張よりもまだかなり高いため、トランプ氏の反応は予想しづらい。

ただ、民主党側には所得再分配的な税制の徹底を主張する声も少なくない。「何が公正か」をめぐって民主党側と共和党側の理念が異なっており、両者の差を埋める必要がある。

そもそもオバマケア代替案の失敗の時のように、トランプ政権としては自由議連を中心とする共和党内の反対をまず抑えないといけない。しかし、マコーネル上院院内総務、ライアン下院議長という2人の共和党の議会リーダーとトランプ政権の関係は冷え切っている。特にトランプ大統領とマコーネル氏はオバマケア代替案の失敗の際に電話で激しく罵り合ったと報じられており、なかなか関係修復が進んでいない。

■ 民主党の懐柔策と今後

一般的には、大統領の評価は自らの公約をどれだけ議会に立法化させるかによって変わってくる。オバマケア代替案の失敗に象徴されるように、トランプ大統領の場合、公約の立法化はまったくといっていいほど、実現していない。トランプ政権発足時に華々しく打ち上げた大統領令はあくまで行政命令でしかなく、「張り子の虎」のようなものである。大統領令で動かすことができるのは、そもそも行政側に権限がある政策に限られており、あくまでも「小手先」にすぎない。外交政策の実際や、貿易促進権限法案が通ったため、大統領に先議権が与えられていたTPPからの脱退などは例外的に大統領に権限が与えられていたものである。

議会を動かせないために、自らの評価が極めて悪くなる瀬戸際にトランプ大統領は追い込まれているといえる。

この状態を打開するため、トランプ政権が乗り出したのが、与党・共和党指導部を迂回し、議会の民主党指導部や民主党の特定の議員に近づいていく懐柔策である。9月中旬にはちょうど、債務上限問題での民主党指導部との妥協を図ったばかりであり、これに続き、何人かの民主党議員との会食などを通じ、民主党側に減税や税制簡素化に向けた自身の取り組みに支持を求め、説得を試みている。トランプ大統領としてはかなり本腰を入れて議会対策に乗り出しているといえる。ハリケーン対策予算の確保など、民主党側との協力が必要であるという現実もトランプ氏に民主党側への接近を促すこととなっている。

しかし、移民政策や白人至上主義事件をめぐる対応などで、民主党側にはトランプ政権に対する根深い疑念は消えない。

また、自分たちの頭越しにトランプ政権と民主党の一部の歩み寄りが進んでいることに対し、面白くないのが共和党議会指導部の本音だろう。特に、民主党側が求める債務上限の上限そのものの撤廃についてトランプ氏が同意したことに対しては、共和党議会指導部からはかなりの反発がある。

今後の税制改革がどう進んでいくのか、問題が山積しており、なかなか読みにくい。今後のカギとなるのは、トランプ氏が共和・民主いずれの党の議員に対しても、どれだけ歩み寄って、説得できるかだろう。

【21世紀政策研究所】

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