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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年9月28日 No.3332 (地球温暖化対策)カーボンプライシングに関する諸論点<1> -カーボンプライシングとは何か/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学教授) 有馬純

カーボンプライシングに関する議論がまた胎動している。今春、環境省中央環境審議会長期低炭素ビジョン小委員会が取りまとめた「長期低炭素ビジョン」の最大のねらいは、2050年80%削減目標を達成するためのカーボンプライシング、より具体的には排出量取引および大型炭素税の導入であると思われる。環境省はさらに「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」を設置し、本件に対して腰をすえてかかる構えをみせている。

こうしたカーボンプライシングの検討の議論の活発化を踏まえ、21世紀政策研究所では昨年6月にカーボンプライシング研究会を設置し、さまざまな議論を行い、先般、「カーボンプライシングに関する諸論点」の取りまとめを行った。カーボンプライシングに関する議論は簡単には決着しないだろうし、事実、炭素税、排出量取引導入論は過去、何度となく政府部内で検討・凍結され、また再検討するというプロセスを繰り返してきた。

今号から7回にわたって、カーボンプライシングに関する各論点について、解説をしていく。

■ カーボンプライシングとは何か

まず、「カーボンプライシング」とは何かということだ。巷間、「カーボンプライシング=炭素税または排出量取引」という言説が流布しているが、実はカーボンプライシングの外縁はもっと広い。

カーボンプライシングの手法は、明示的カーボンプライシングと暗示的カーボンプライシングに大別される。明示的カーボンプライシングは排出量取引、炭素税のようにもっぱら温室効果ガス削減を目的として炭素排出に直接価格をつける政策であり、暗示的カーボンプライシングはエネルギー課税、再エネ支援措置、省エネ規制等、温室効果ガス排出削減に効果のある政策措置であり、その結果として削減されるCO2換算1トン当たりの社会に対するコストは暗示的なカーボンプライスを形成する。さらにカーボンプライシングのなかにはインターナル・カーボンプライシングや自主行動計画のように民間企業が自主的に設定するものも存在する。

したがって日本のカーボンプライシングを考えた際、CO2排出量1トン当たり289円の地球温暖化対策税だけを取り上げるのは誤りであり、「カーボンプライシング=炭素税、排出量取引」という狭い定義に基づき、もっぱら欧州を引き合いに出して「日本は遅れている」というのはバランスを欠いた意図的な議論といわざるを得ない。

■ カーボンプライシングを考えるにあたっての視座

次にカーボンプライシングを考えるにあたっての基本的な視座を考えてみたい。

まず、第一にカーボンプライシングの導入根拠とされている地球温暖化問題の特質を理解することが重要だ。地球温暖化問題は地球規模の巨大な外部不経済であり、これに対応するには地球規模の対応が必要となる。そのためには世界統一のカーボンプライシングが成立し、世界全体で限界削減費用が均等化することが理想的である。しかし現実には世界共通言語、世界共通通貨と同様、世界統一のカーボンプライシングが実現するとは思えず、各国各様の対応とならざるを得ない。

温暖化対策の便益は地球全体に均てんされる一方、温暖化対策のコストは各国で発生するため、必然的に“ただ乗り”の構造が発生する。このため温暖化防止のコスト負担の国際分担に合意することは至難であり、地球温暖化交渉がかくも難航してきたのもこれが原因である。

2015年12月にパリ協定がようやく合意されたが、目標値、達成手段を交渉対象とせず、各国に委ねられたからこそ合意できたともいえる。すなわち、各国が努力、負担の公平性を自分で判断するということであり、カーボンプライシングで国民経済に追加的コスト負担を課する場合、他国の動向、国際競争力への影響を考えねばならない。

次号では、カーボンプライシングを考えるにあたっての視座として、カーボンバジェット論への疑問を解説する。

【21世紀政策研究所】

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