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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年1月18日 No.3346 「データ利活用と産業化 ―経営資源としてのデータの利活用」 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹 越塚登(東京大学大学院情報学環教授)

近年、ビッグデータ、オープンデータ、IoT、AI、情報銀行(注)、ブロックチェーン(分散型台帳技術)など、IT/ICTに関するさまざまな取り組みと、華々しい成果が知られるようになった。例えば、米国のIndustrial Internet ConsortiumやドイツのIndustrie 4.0といった取り組み、AI型の音声認識技術を活用したSmart Speakerが家庭にも入ってきている。またドローンや自動車の自動運転、仮想現実(VR)・強化現実(AR)といった新しいメディア技術、囲碁や将棋の世界でもAI同士の自己対戦による強化学習によって、人間を凌駕する能力を短期間に獲得するといった事象が起きている。

その一方で、IoTやAIで莫大な収益を上げて経営がV字回復したというITベンダー企業の話や、IoTやAIを導入して経営改善に成功した具体的な事例は身近ではあまり聞かれず、肌感覚としては、「AIやIoTは本当にもうかるのか?」といった率直な疑問も言われている。また、ポジティブな面だけなく、セキュリティーやプライバシー侵害、サイバーアタックなど、ネガティブな面への懸念もある。こうした課題にまみれて、日本だけが世界から置いていかれているという漠然とした不安にもかられる。

そこで、こうした疑問や課題、不安を解消することを目的として、21世紀政策研究所は2016年11月から、東京大学情報学環の研究者、産業界の研究者の参加のもと、「データ利活用と産業化」というテーマの研究プロジェクトを推進している。

■ 研究プロジェクトの概要

研究は3段階に分けて進めており、第1段階としてわが国におけるデータ利活用の課題を把握・分析し、第2段階として成功事例・失敗事例を分析、最後の第3段階には課題解決のための方法論を議論して、最終的には産業界の役に立つ知見を示すことができればと考えている。すでに研究は最終段階にあり、昨年9月には、中間報告のシンポジウムも開催した。その内容は、追って21世紀政策研究所から出版される新書をご覧いただきたい。また今回、その研究成果の一端の紹介として、本紙において、当研究プロジェクトの研究委員の連載を予定している。

■ データ利活用のポイントと課題

データの利活用を企業経営に活かすためのポイントは、多くの場合は技術よりも、それを経営に結びつける部分にある。最終的には極めて当たり前の話になるが、どれほど高い水準のIoTやAIの技術を導入しても、そもそも経営改善する意欲とその取り組みがなければ成功しない。

もう1つ重要な点は、組織形態や事業モデルの大きな変革(Change)を伴う場合に、そこにいかに踏み出すかである。また、社内の膨大なデータが建て増し式で相互運用性のない多数のデータベースに収容されており、データがあっても使えないケースもみられる。もちろん、データを技術的にうまく取得したり分析したりできていないケースは、これだけブームになっている分野であるため、間違った方法論は比較的容易に修正可能である。また、遠隔監視や遠隔制御、予防的保守、業務フロー最適化など、データ利活用の王道とされる分野には、すでに多くの企業が取り組み、効果を挙げている。

もう1つ課題を挙げるならば、地方における中小企業でのデータ利活用がある。地方の中小企業でも意欲の高い企業は多いが、そのツールのコストが高価であったり、既存の設備の拡張で実現できるソリューションが少なかったりなど、中小企業に適用できるものが手薄な状況である。公共オープンデータの進展、情報銀行やPDS(Personal Data Service/Store)など個人情報の適正な流通環境の整備など、データ利活用の環境は整いつつあり、もうひと押しで花開くような、今後に期待できる事例も多くみられる。

同プロジェクトの最終成果は、報告書の発刊およびシンポジウム(5月開催予定)での報告を予定している。

(注)情報銀行=個人情報にひも付いた行動履歴や購買履歴などのITデータを、個人の預託に基づいて 一元管理する制度

【21世紀政策研究所】

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