経団連の教育問題委員会企画部会(三宅龍哉部会長)は4月4日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、大学改革支援・学位授与機構の田中弥生特任教授から「高等教育行政の現状と課題」について聞き、懇談した。説明の概要は次のとおり。
■ 必要とされる高等教育セクターの質向上
18歳人口の減少にもかかわらず、大学数は微増しており、私立大学の約4割で定員割れが起きている。国立大学も、全体でみればほぼ定員充足の状態だが、学部や学科ごとにみると定員割れがみられる。学生の学力低下は、大学のみでなく初等中等教育段階からの問題だが、教育の最終出口となる大学が出口での学生の質を保証できる状態にあるとはいえない。そこで、まずは高等教育セクターの質を向上させる改革を行うべきである。
■ 高等教育制度の主要な3要素
高等教育制度は非常に複雑だが、単純化すると、(1)大学等の高等教育機関による教育サービス(2)評価制度・評価機関(3)資源配分(国からの支出)――という3つの要素で構成される。
(1)教育サービス
現状、大学が行う教育の効果や成果ではなく、3つのポリシー(注)に沿った運営が行われているかどうかで教育サービスの質保証が行われている。しかも、大学単位での質保証であるため、学部や学科による差はみえない。実際、教育成果の測定は困難で、世界的にも試行錯誤が続いている。大学のなかには、教育の質について強い危機感を抱き、自ら努力して質の向上で効果を上げている大学もあるが、ガバナンス問題で妨げられている大学もある。そこで、改革の方向性として (1)教育成果に重心を移した質保証とすること (2)大学単位でなく学部・学科(プログラム)単位で質保証を行うこと (3)経営と教育を分離し、効果的な資源配分を可能とするガバナンス改革を行うこと (4)教育効果の測定方法の開発を促進すること――を提示したい。
(2)大学評価制度・機関
大学に対する評価には複数の制度がある。すべての大学が7年に一度受けることとされている認証評価は、主に大学設置基準との合規性について行われ、教育水準や学習成果に基づく相対評価ではない。また、国立大学が6年に一度受ける国立大学法人評価は、各大学が自ら設定した中期目標・中期計画の達成状況と、ステークホルダーの期待に応じた成果の現況分析に基づくもので、相対的な評価ではなく、主観的な要素が多い。国立大学には重点支援評価もあるが、大学が個別に指標を設定しており大学間の相対評価とはいいがたい。評価機関は複数存在するが、評価者は主として大学教員であり、その意味で身内による評価といえる。評価の判断基準も不明確であり、さらに、仮に認証評価で不適合と判定されても、大学にはペナルティーが課されない。評価制度・評価機関の強化に向けて、(1)複数の評価制度やその重複の整理・合理化 (2)大学等から独立した機関による評価や委員の構成の変更など身内による評価からの脱却 (3)評価方法の簡素化と合意形成の透明化 (4)相対評価を可能とする制度改善 (5)評価結果に基づくインセンティブとペナルティーの付与――が必要と思われる。
(3)資源配分
国立大学に対する運営費交付金には、基幹経費が毎年度ほぼ同額配分されており、機能分化促進のための重点支援評価に基づく配分額は基幹経費の1%程度にすぎない。これに国立大学法人評価による配分が併存しており、非常にわかりづらい。運営費交付金の配分を1つに統一し、配分方法に関する考え方を明確化したうえで基準や係数を設定するなか、メリハリを利かせた配分とすることが必要と思われる。
私立大学に対しては、学生1人当たりの一般補助(学生数や教職員数に応じた基盤経費の補助)金額は概ね横ばいで推移しているが、目的を特定した特別補助は増加傾向にあり、定員割れを起こしている私立大学の延命にもつながっている。財務情報を開示していない大学には一般補助を減額したり、一般補助でつけたメリハリを特別補助で相殺しない配分とする改革が必要だ。
(注)卒業の認定に関する「ディプロマ・ポリシー」、教育課程の編成および実施に関する「カリキュラム・ポリシー」、入学者の受け入れに関する「アドミッション・ポリシー」の3つ。2017年4月から、大学にはこれらの策定と公表が義務づけられている
【教育・CSR本部】