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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 週刊 経団連タイムス 2019年1月17日 No.3392 中国と国際秩序 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究主幹(東京大学大学院総合文化研究科教授) 川島真

川島研究主幹

世界の国際秩序はこれまでも大きな変容を経験してきたし、覇権国はさまざまな挑戦を受けてきた。ドイツや日本の台頭と第二次世界大戦もその1つであっただろうし、ソ連を中心とする社会主義陣営の形成と東西冷戦もその変容過程の1コマだった。そうしたなかで覇権国の交代も起きた。イギリスからアメリカへの移行がその代表格だろう。他方、国家以外の主体からの挑戦もあった。タリバンやISの動きは「国際」秩序への挑戦であったともいえるだろう。

では、米中関係を含め、現在の中国の動きは既存の世界秩序への挑戦なのか、また挑戦だとするならば、それはどのような挑戦なのか。まず確認すべきは、中国自身が既存の世界秩序に挑戦する、しようとしている、とは言っていないことだ。それどころか昨今は自由貿易秩序の擁護者などとまで言っている。だが、アメリカのペンス副大統領のハドソン研究所での演説にみられるように、アメリカでは中国が既存の秩序に挑戦していることを前提にしているような議論も多い。そのような、中国が既存の秩序に挑戦しているとする議論には、主に2つの前提がある。

第1に、中国自身が経済発展しても民主化しないという点だ。これまでは経済発展した国は民主化して先進国となり、こうした国々がリベラルな国際秩序を維持してきた。しかし、中国は「国家資本主義」などといわれるように、むしろ民主化しないことで、国家が迅速にこのグローバル化の波に対応してきた。現在、経済発展しても民主化しない国が徐々に増え始め、実際に民主主義国・地域が減少してきている。このような減少は必ずしも中国が主導、唱導した結果ではない。だが、中国がその先鋒的存在にみえるだろう。

第2に、これまでの国際秩序が民主主義に依拠し、民主主義が拡大すれば、基本的に世界は安定し、平和になるだろうという考え方に基づいていたのに対して、その民主主義を媒介としない国際秩序が中国によって想定されていることだ。2017年の第19回党大会で習近平国家主席が述べた新型国際関係は、今後の中国の想定する、世界の国際関係のあり方を示す。そこでは「民主主義」を全く媒介としない関係、つまり経済関係に依拠したパートナーシップ、そして人類運命共同体などが想定されていた。これもまたアメリカからみれば、中国が従来とは異なる世界秩序像を描こうとしていると映るだろう。

そうした意味では、さまざまな解釈が可能であるにしても、中国が既存の秩序に挑戦しているとする議論にも一定の根拠があるということだ。また、その挑戦と思われる内容は上記の2点のほかにもいくつもあろう。だが、習近平国家主席が、2049年にアメリカに追いついていくことを想定しているように、この世界レベルの国際秩序の動きは、明らかにこの3年、5年のことではなく、長期的なものだ。日本もまた当面は、先進国のひとつとして、リベラルな世界秩序の維持というスタンスを維持することになるだろう。だが、将来的に技術革新の面でも西側先進国ではなく、中国などがそれを主導するなどして、世界史的な転換が生じた場合には、19世紀半ばに日本が決断した明治維新のような大きな決断が求められることになるかもしれない。

しかし、日本には差し迫った短期的な課題もあると筆者は考える。本稿の表題の国際秩序が「世界の」ではなく、「東アジアの」となればどうだろうか。中国の「お膝元」であるこの東アジアでの変化は世界全体のそれよりも早い。米中が世界レベルで協調しても、東アジアでは中国が優位性を獲得しようとすることもあり得る。朝鮮半島と台湾海峡、東シナ海と南シナ海における変化は、まさに東アジアにおける既存の国際秩序の変容を示す1つの現象だ。日本は中国の隣国であり、アメリカとは地理的な位置が異なる。日本としては、中国を既存の地域秩序の擁護者となるように仕向けていく必要、あるいは少なくとも中国による地域秩序の変更を鈍化させる必要があろう。この点、安倍首相が中国に提起した開放性、透明性、経済性、財政健全性という4条件は重要だ。中国はまだこの4条件を受け入れていないが、今後、日本が中国の懐に入り込んで、中国と対峙できるのか、アメリカをいかにこの地域に引き込めるのか、当面はそれが大きな課題になるだろう。

【21世紀政策研究所】

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