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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 週刊 経団連タイムス 2019年2月21日 No.3397 中国農業の新たな担い手への期待と懸念 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(関西学院大学国際学部教授) 寳劔久俊

寳劔研究委員

中国は農村部に膨大な人口を抱える一方で、農業に利用可能な土地は限られるため、その農業経営は零細性という問題に常に悩まされてきた。2016年に中国で実施された「農業センサス」によると、農業経営体当たりの平均耕地面積は0.64ヘクタールにとどまり、日本(北海道を除く)の1.99ヘクタール(16年、農林水産省)を大きく下回る。

だが、所得水準の向上に伴う食の多様化と高度化、そして農業就業人口の急速な減少に対応するため、経営面積の規模拡大や新たな担い手による農業参入も広がってきた。

■ 農地の制度変化と農業の担い手

中国農村では、住民自治組織(村民委員会など)が所有する土地を農民が請け負うかたちで農業経営が行われている。1990年代半ばまでは請負契約の期間が15年と短く、自治組織による請負農地の割り換えも頻繁に行われ、農地に関する農民の権利は非常に弱い立場に置かれていた。そのため土壌改良やハウス建設といった農業投資への意欲は阻害され、請負農地の貸借も親類・友人など、ごく親しい間柄で行うものに限られていた。

しかし、90年代後半から取り組まれてきた請負制度の改善と請負権の法的保護の強化、そして農業振興政策の推進によって、農地利用にも顕著な変化が起きている。農地の流動化は2000年代後半から顕著に上昇し、16年には農地の流動化率が35%に達し、村外の住民や農家以外への農地の賃貸借も増加するなど、新たな担い手のもとで集約化した農業経営が徐々に広まってきた。

そのような新たな担い手の1つが「農民専業合作社」(以下、合作社)と呼ばれる農業協同組合的な組織である。合作社は元来、農家間の農業技術交流や生産資材の協同買い付け、農産物の共同販売などを促進するための組織であった。しかし近年は、合作社自体が農地を一括して請け負い、専門的な経営者による大規模な農業経営に乗り出す動きも進んでいる。

また「家庭農場」と呼ばれる家族労働を主とする専門的な農業経営体の発展も政策的に推進され、その数は全国で約45万カ所(16年、農業部)に上り、平均経営規模も10ヘクタールを超える水準にある。さらにこれらの組織・経営体と連携するかたちで、豊富な経営資源を持つアグリビジネスや一般企業による農業経営への参入も進展してきた。

■ 新たな担い手の内実

その一方で、新たな担い手の貢献については、実態に基づいた慎重な評価が必要である。合作社の組織数は16年末には約180万社に達したが、政府による目標数値を実現するために設立された名義上の組織や、補助金の受給や税制上の優遇を目的に設立された組織も少なくない。

そして、多額の補助金や広範な優遇措置を享受する一部の家庭農場や企業では、農業施設や関連設備向けの投資が過剰となる一方で、農業収益が伸び悩むことも多い。その結果、事実上の経営破綻に陥ったり、農業経営から早期で撤退したりする事例も相次いでいる。さらに企業による農業参入では、農地の非農業転用をねらったケースも少なからず存在するため、安易な参入の増加は中国の農業生産基盤を弱めることにもつながりかねない。

他方、食料安全保障を重要な政策課題とする中国では、食糧の目標生産量を各地に割り振っているが、一部の先進地域ではその目標を達成するため、潤沢な財政支出を投入し、専門的な経営者による大規模な穀物生産を展開している。財政的に豊かな地域にとって、農業支援のための財政支出負担は現状ではそれほど大きくない。しかし採算を度外視した食糧生産の維持は、生産効率に対する意識を低下させ、長期的にみると食料安全保障に負の影響を与えることも懸念される。

したがって、中国の新たな担い手による農業参入を一方的に礼賛するのではなく、経営の実態や地域農業への貢献を考慮しながら、適切な評価を行うべき段階に来ている。

【21世紀政策研究所】

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