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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 週刊 経団連タイムス 2019年2月28日 No.3398 技術革新時代における中国型社会統制の行方 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(学習院女子大学国際文化交流学部准教授) 金野純

金野研究委員

■ 加速する中央集権化とデジタル化する社会統制

「新時代」を掲げる習近平政権下で、中国の政治や社会はどのように変化しているのだろうか。近年の動きを観察してみると、政治社会、特に統制のあり方に関して大きな特徴として挙げられるのは加速する中央集権化の波であり、また近年の情報技術革新と融合した社会統制技術の急速な進化である。

2013年12月に共産党は習氏を組長とする中央全面深化改革領導小組を新設し、政治経済の枠を超えてスポーツ振興にまで至る幅広い領域への関与を強化している。地方の綱紀粛正も厳格化し、中央巡査組による地方巡視も強化された。

社会統制に目を向ければ、人工知能(AI)技術を応用した監視カメラ網が着々と整備されている。その進化はBBCの報道などにより世界にインパクトを与え、日本国内のメディアでもたびたび取り上げられている。ビッグデータの集積とAIの発達、情報技術の革新と共産党独裁体制はさまざまな面で融合を始めており、中国型社会統制に新たな展開をもたらしている。

■ 習近平政権下で拡大する法の網

しかし、われわれが中国型社会統制の今後を考える時、もうひとつ見逃してはならない重要な変化がある。それは「法治」の拡大である。いま話題の顔認証付き監視カメラネットワークについても、守るべきルールが法として明示されず、背後に物理的強制力が存在しなければ、中国人が振る舞いを自己規制することはないだろう。社会統制の根幹にあるのは法であり、統制技術の進化は法との関わりのなかで論じられなければならない。

習政権下では、反スパイ法、国家安全法、反テロ法、海外NGO国内活動管理法、サイバーセキュリティ法などが矢継ぎ早に施行されており、習近平氏は過去の指導者と比較しても統治強化に法を利用している。最近(19年1月)、反スパイ法によって中国で日本人がスパイ罪で実刑判決を受けたことが報道されたように、中国が進める「法治」はわれわれと無関係ではない。

このような「法治」とデジタル技術とが結びつくことにより、中国の社会統制は新たな段階に入りつつある。それはサイバー領域と実社会を結びつけたアーキテクチャーの構築である。その一例がスマートフォンを通した電子決済情報、学歴、職歴、交友関係を変数として個々人の信用を数値化し、その数値によっては実社会での行為の選択肢が制限されるというシステムである。中国の最高人民法院の報告によると、収集された信用情報に基づいて年間数百万人もの人々のフライトチケットの購入や高速鉄道の乗車が制限されている。

■ 中国型社会統制の行方

このような社会統制には、単なる抑圧とは異なる側面がある。まず、多くの中国人は生活の安全とプライバシーを天秤にかけ、政府の監視を受容している点である。そして監視社会がセキュリティ市場の拡大を生み出し、企業家精神を刺激し、Intellifusion(雲天励飛)のような顔認証技術と監視カメラを結びつける企業が生まれる土台となり、それがまた新たなイノベーションにつながるというサイクルが存在していることである。中国の社会統制は、デジタル化の進展によってマーケットと結びついて進化する段階に突入しており、この傾向は今後も継続すると考えられる。

こうした中国の社会統制モデルの世界的影響力の拡大を懸念する論者も多い。実際、最近のアメリカを中心としたファーウェイ(華為技術)排除の動きの背後には、単に中国の諜報活動や貿易摩擦といったファクターだけではなく「冷戦の技術バージョン」(J・ゴールドスミス、T・ウー)といった時代の大きな変化がある。ただ注意すべきなのは、中国モデルの核となる価値観やアイデアを反映しているのはデジタル技術ではなく、諸々の法である。ロシアでは18年7月から中国のサイバーセキュリティ法に類似した法規制が始まっており、中国モデルの価値を含んだ法規制の越境的拡大、またその価値を反映したアーキテクチャーの増殖にこそ、われわれはより深い注意を払う必要があるのである。

【21世紀政策研究所】

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