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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 週刊 経団連タイムス 2019年7月4日 No.3414 米国分断の新局面~ポピュリズムと宗教 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/帝京大学文学部社会学科准教授 藤本龍児

藤本准教授

■ トランプ政権と「God Gap」

トランプ政権は、いくら批判を受けても40%前後の支持率を保っている。その振れ幅も小さい。歴代政権では、およそ15~65ポイントの幅で上下したが、トランプ政権では、今のところ10ポイントの幅でしかない。ここに「トランプ派VS反トランプ派」の二極化と、その固定化が読みとれるだろう。

ただ、それを従来の政党間の対立と見なすことはできない。なぜなら、トランプ氏は、共和党員の9割に支持されているものの、同時に自由貿易や保護主義、社会民主主義などの問題を喚起し、両党の理念を突き崩したからである。

しかし、そのトランプ氏の登場によっても崩れなかった分断がある。「God Gap」と呼ばれるもので、教会の礼拝によく出席する者は共和党に、あまり出席しない者は民主党に投票する、という傾向を指す。これにより1980年代以降、共和党で大統領候補になるには、人口の約3割を占める宗教保守から支持されることが欠かせなくなった。トランプ氏もこの原則を厳守し、大統領就任後も、歴代政権以上に宗教保守を屋台骨としている。

宗教保守の影響力は、例えば「在イスラエル米大使館のエルサレムへの移転」に表れた。God Gapが、国内政治だけでなく外交など他の分断にも大きく作用し、新たな局面を生じさせているのである。ここではその局面について、ポピュリズムの観点から見てみよう。

■ 先進国のポピュリズム

トランプ氏は、対立を煽り、そこで生じる批判を逆手にとって支持層を固める。そうした政治手法を得意とする。皮肉にも、反トランプ派の熱心な批判が政権を支えている、という側面を否定できない。そのからくりが認識されながらも対策が難しいのは、背後にポピュリズムの構造があるからである。

一般に「大衆迎合主義」と説明されるが、そう単純ではない。研究者の間では、「エリートVS人民」という対立がポピュリズムの基本にある、と考えられている。ただ、先進国の場合はもう少し複雑で、大衆たる中間層の認識に特徴がある。上層のエリートは過剰な利益を手にし、また下層のマイノリティーを不当に優遇している。そのように考える中間層が、生活レベルの低下とともに、上と下に位置する少数者に反感を募らせていった。社会哲学の観点からすれば、先進国のポピュリズムは、基本的に「少数者連合VS中間層」という世界観に根ざしているのである。もちろん両陣営の内実は、各国の事情により少しずつ変わる。ただ、宗教が関わることが多く、米国ではそれが顕著なのである。

■ ポピュリズムにおける宗教と経済

宗教保守の中核たる福音派は、一つに、神の前での「平等」を前提とし、「知性」よりも「霊性」を重んじる。ゆえに知的エリートよりも、信仰の篤い庶民を信頼する。二つに、神と向き合って「個」を強く意識し、自立や自己責任を重んじる。「自己統治 self-government」の理念をもつといってもよい。そのため、地方自治や国家主権に介入してくる連邦政府や国際機関に強く抵抗する。三つに、労働を尊ぶ倫理観をもつ。「富の再分配」は勤労意欲を削ぐと考え、増税は労働の成果の不当な徴収だと見なす。ゆえに、労働を正当に評価する「自由市場」に賛同する。かくして宗教保守の7割がティーパーティー運動を支持した。

ところが、労働が報われない「グローバル市場」となれば、反対にまわる。ただ、必ずしも自分の利益第一ではないし、貧困に冷淡なわけでもない。地元の教会を通じて寄付やボランティアをする者も多い。にもかかわらずリベラル・エリートは、宗教保守を無知であるとか、差別主義者、排外主義者と見なすことが多い。そうして抱かれた疎外感や反感をトランプ氏は巧みにすくい上げ、白人福音派の8割の票を得た。その際には、労働による世俗的成功を神の祝福とする考えや、成功者は雇用を創出できるという期待も作用した。

このようなポピュリズムと宗教の関わりには、経済のほかにも文化戦争や移民問題など、重要な論点が多い。分断は入り組んでおり、単純な批判の応酬は分断を深めることになるのである。

【21世紀政策研究所】

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