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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年8月8日 No.3419 グローバル秩序のなかのEU・米国関係 -21世紀政策研究所 解説シリーズ/帝京大学法学部教授 渡邊啓貴

渡邊教授

■ 多難なトランプ政権との関係

ヨーロッパを取り巻く環境のなかで米欧関係は不安定化している。国際的要因としてトランプ政権の誕生 ・中国の台頭「一帯一路」・ウクライナ危機(ロシアの野心)など、また域内要因としては、ユーロ債務危機(銀行統合でひと段落しているが)、大量移民・難民危機とその結果としての排外主義・反EUポピュリズムの台頭などがある。それらは統合のゆがみであると同時にいわば「(統合=)デモクラシーゆえの代償」でもある。

EUは今日の国際秩序を「多極構造」という視点からとらえている。したがって米欧関係を最も重視しつつ、中国・日本を含むアジア諸国とも連帯する。他方で、「一帯一路」の一環としての「17+1」という中国主導の多国間協力関係には大きな脅威ももっている。

こうしたなかで今日、EUはトランプ政権下の米国とさまざまな齟齬に遭遇している。NATOの軍事費増額要求と米国の撤退の脅威、パリ協定合意・イラン核合意・中距離核戦力(INF)全廃条約からの米国の離脱、米国のエルサレム承認と米国大使館の移転、EU・米関税戦争、ファーウェイ制裁などで米国と摩擦を抱えている。

■ 戦略的自立志向を強めるEU

そうしたなかで、EUは「戦略的自立」を強調し始めている。EUはイラク戦争のさなかに初めて独自の「戦略」を提唱した(2003年12月『より善い世界における安全なヨーロッパ―ヨーロッパ安全保障戦略〔ソラナ報告〕』)。そして16年にはその第二弾となる『EU外交安全保障政策のためのEUグローバル戦略』を発表し、戦略的自立を主張した。

そうした欧州の姿勢の背景には、歴史的な米欧関係の行動準則のようなものがある。大西洋同盟は基本的に米国の圧倒的なパワーの優勢を基礎とする、基本的には「不均衡な同盟」である。また米国はその建国精神である「理想」を求めた「理念の共和国」である。したがって第二次世界大戦後は世界の指導者であることを自らの使命としたが、状況によっては孤立主義的姿勢に固執することもある。そうしたなかでどのようにして、米国との対立を避け、克服していきつつ、自分の利益を確保していくのか、ということが問われている。その意味では、米欧関係には協力(協調)と対立(競争)が併存している。それこそが同盟の今日の実態である。より具体的にみると、米欧関係は常に一枚岩ではなく、国益・手段と世界観が不一致のときがある。特に域外(中東・アフリカなどの大西洋域外)地域をめぐる問題では「競争」「対立」の局面がしばしば明示的となる。

■ EUの戦略的自立

EUの戦略的自立は、最近になって始まったことではない。政治統合の歴史をひも解くと、1954年の防衛共同体・政治共同体の挫折にまでさかのぼる。より具体的なものとしては、冷戦が終結する前年に創設が決まった独仏合同旅団にはじまり、さまざまな多国籍軍の試みや「欧州軍団」、20世紀末にはNATO派の英国が加わり欧州共通防衛政策は一気に加速化した。

そしてトランプ政権下での防衛費負担増の要求はドイツを中心とする「自立」要求に拍車をかけている。それが2016年のグローバル戦略の延長でもあるPESCO(欧州常設軍事協力枠組み)だ。もちろんこれらの部隊は軍事攻撃のためではなく、紛争解決・平和構築に至る「危機管理」「復興支援」を目的とする「主体的防衛」を任務とする。

特にドイツは戦略的自立を積極的に主張する。科学政治基金(SWP)のドイツ国際政治・安全保障研究所のレポートは、戦略的自立とは、「外交安全保障政策に優先順位をつけたり、決定を行ったり、制度・政治・物質的要求を満たしたり」「ルールを維持、発展あるいは創設すること、自らを他国のルール下に置かないようにすること」と定義する。「大国に従順なだけの立場」とは異なるとも指摘する。トランプ政権が誕生してから大西洋関係には間違いなく変化の胎動がみられる。

【21世紀政策研究所】

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