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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2024年1月1日 No.3619 近時の労働判例からのインプリケーション -労働法規委員会労働法企画部会

中井氏

経団連は12月1日、東京・大手町の経団連会館で労働法規委員会労働法企画部会(田中憲一部会長)を開催した。中町誠法律事務所の中井智子弁護士が、最近注目されている労働判例を紹介のうえ、今後の人事労務管理に求められる対応について講演した。概要は次のとおり。

■ 経産省性同一性障害事件

本事案は、経済産業省職員でありトランスジェンダー(身体的性別は男性だが、自認している性別は女性)の上告人が、女性職員との公平な処遇(女性用トイレの自由な利用を認める等)を要求したところ、人事院がこれを認めないと判定したことの取り消しを求めたものである。最高裁は、上告人に不利益を甘受させるほどの具体的な事情は見当たらず、他の職員への配慮を過度に重視し上告人の不利益を不当に軽視したとして、裁量権の範囲の逸脱・濫用による違法だと判断した。

本判決は、個別具体的な「事例判決」であり、自認する性別のトイレ使用を一律に認めるべきとの判断を示したものではないと理解している。同判決の補足意見に目を通すと、自由なトイレの利用を無条件に受け入れるコンセンサスは現状の社会にはまだないと指摘している。さらに、性的マイノリティについて社会全体で議論され、コンセンサスが形成されることへの期待が述べられている。

こうした補足意見の指摘には賛同できる。私自身も企業等からトイレ利用について相談を受けた際には、現段階では性同一性障害であるという本人の申告だけではなく、一定の診断書等を求めるべきとアドバイスしている。また、企業には、ダイバーシティ促進のためにも、社内での議論が活発になるような土壌づくりが求められよう。

■ 名古屋自動車学校事件

本事案は、自動車学校を経営する株式会社を定年退職後、同社と有期労働契約を締結して再雇用された労働者2人が、正社員と労働条件の相違があるとして不法行為に基づく損害賠償を求めたものである。最高裁は、原審が基本給や賞与の性質、支給目的の検討、労使交渉の経緯の認定をしていないと指摘し、再雇用者と正職員の賃金格差は6割を下回ってはならないとした原審判決を破棄、差し戻しした。

本判決を踏まえると、同一労働同一賃金が争点になった場合に、例えば使用者側が社員の基本給や手当をどのような考えのもとで設定したかを労働者に明確に説明していないと、賃金格差は不合理と判断される可能性がある。このため、使用者は、労働条件の設定の際にその目的を明確にし、労働組合の有無にかかわらず労働者に積極的に説明することが重要となる。

■ 最近のトピック~ストライキ

2023年8月にそごう・西武の労働組合がストライキを決行したことは記憶に新しい。合法的なストは、いきなり実行できるものではなく、使用者による団交拒否や回答拒否などが前提として必要となる。なお、朝日放送事件の判例によると、自己が雇用する労働者でなくとも、労働条件について現実的かつ具体的に支配している場合には、使用者にあたると判断されていることに留意が必要である。さらに、予告を経ない抜き打ちストや、予告に反したストもその正当性が問われ、判例では、使用者の事業運営に混乱や麻痺をもたらしたかどうかを個別に判断している。

【労働法制本部】

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