経団連のヨーロッパ地域委員会(東原敏昭委員長、髙島誠委員長)は3月18日、東京・大手町の経団連会館で、欧州地域に駐在する日本国大使との懇談会を開催した。東原副会長・同委員長の冒頭あいさつの後、4人の大使から現地情勢等について説明を聴いた。概要は次のとおり。

右から相川大使、志野大使、鈴木大使、中込大使
■ 相川一俊 EU日本政府代表部大使
欧州連合(EU)は、米国の鉄鋼・アルミ関税に対抗措置を講じる方針である。またウクライナを巡る米国の動向を受け、総額8000億ユーロの欧州再軍備計画を進めている。米国に左右されないよう軍備を強化していくという決意は固い。
欧州委員会は競争力強化を最優先課題として掲げており、日本からの働きかけが相当程度反映されるものもある。例えば自動車行動計画については、欧州企業のみならず日本企業にもヒアリングすることとなった。法案が出る前に働きかけることが重要であり、引き続き国益を反映させるべく取り組む。
経済安全保障については、東京エフェクトという言葉をよく聞くようになっており、日本との協力に前向きである。また、メルコスール(南米南部共同市場)との自由貿易協定に合意したほか、インドとも全閣僚間会議を開催しており、グローバルサウスへの接近が増えている。
■ 志野光子 駐ドイツ大使
2025年2月の連邦議会選挙を踏まえた連立交渉が行われている。協議の行方にかかわらず変わらないのは、最近の米国の動向を踏まえ、ウクライナ支援を継続・強化することと、国防費を増額することである。
ドイツ経済はこれまで、ロシアからの安価なエネルギーや中国市場に支えられてきたが、この2年はマイナス成長を記録しており、25年も厳しい見通しである。加えて、安全保障を巡る米欧関係の不透明さが経済に影響を及ぼす可能性がある。一方、世界情勢が不確実ななかで日本への関心が高まっており、経済安全保障の分野を中心に連携が緊密化している。
■ 鈴木浩 駐英国大使
24年7月に発足した労働党政権は経済回復のため、インフラ投資促進や金融サービスの競争力強化に取り組む方針である。産業戦略を策定中であり、グリーン分野を中心に5兆円規模の投資を実施する予定である。
対米経済関係では米国の貿易黒字で、EUとは一線を画す立場にある。EUに対しては、単一市場や関税同盟への回帰は否定しつつ、関係再構築に取り組み、貿易手続きの円滑化等を目指す。中国については、協力、競争、挑戦に基づき再関与を推進する考えであり、2月には王毅外交部長が10年ぶりに訪英した。
日本とは、先日初の日英経済版2+2閣僚会合が開催され、経済安全保障分野における協力を促進することで一致した。併せて開催された日英戦略経済貿易政策対話では、廃炉を含む原子力や、洋上風力、水素、太陽エネルギー、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)などのクリーンエネルギー分野、量子を中心とするイノベーション、防衛、宇宙、自動車等の分野で重点的に産業協力を進めていくことで一致した。
■ 中込正志 駐ウクライナ大使
経済面では侵略の衝撃から立ち直っており、25年の成長率は2.5%と予想されている。IT分野が成長を牽引しており、GDPの約5%を占めるまでに拡大した。戦時下で政府のデジタル化が急進展し、オンライン上で各種行政手続きを行えるようになった。また防衛分野でも、ドローンや電子戦などIT・先端技術を積極的に活用している。
和平に向けては、ミンスク合意が履行されなかった経験から、「安全の保証」を最重視している。ゼレンスキー大統領も、領土の一体性は譲らないものの、ロシア支配地域の回復は外交交渉に委ねることになる旨発言している。
復興支援で日本への期待は高い。ビジネスミッションの形式も含め、ぜひウクライナを訪問して現地を見てもらいたい。
【国際経済本部】