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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年4月17日 No.3680 次期科学技術・イノベーション基本計画への提言に向けて -イノベーション委員会企画部会

経団連のイノベーション委員会企画部会(田中朗子部会長)は、政府における第7期科学技術・イノベーション基本計画(次期基本計画、2026年4月から施行予定)の策定に対し、経済界として提言すべく、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。EU等諸外国の先進事例や、民間シンクタンクによる次期基本計画への提言について、説明を聴くとともに意見交換した。2月19日、3月18日に開催した会合の概要は、それぞれ次のとおり。

■ わが国における次期基本計画検討に向けた、EU等諸外国の科学技術イノベーション政策動向からの含意(野呂高樹 政策研究大学院大学准教授)

欧州は、イノベーションの欠如に対する危機感を背景に、先端技術の活用、政策決定の高度化、官民連携の強化を軸とする新たな政策アプローチを進めている。その中心にあるのは、「トラスト」「インサイト」「パートナーシップ」の3点である。AIなどの先端技術を活用するに当たり、その信頼性をどのように確保するか、意思決定者へ有益な知見を提供するためのデータや情報の活用、そして、官民・官学のパートナーシップの重要性等が強調されている。

EUの「競争力コンパス」では、競争力をEUの包括的な行動原理の一つとして位置付け、EUと各国の政策が同じ目標に向かって足並みをそろえ、互いに補強し合うことで、大陸規模の競合相手に太刀打ちできるようになることを基本的な考えとしている。そのうえで欧州が本来持っている強みを育み、その資源を活用し、欧州および国家レベルの障壁を取り除くことを目指している。とりわけ、イノベーション格差の解消や競争力強化の観点から、企業支援策としては、北欧で実施されてきた「スケールアップ企業」モデルを導入し、成長段階に応じた支援をしている。また、英国のCAPE(Capabilities in Academic Policy Engagement)のような行政と大学の協働モデルは、学術と政策の連携を促す仕組みとして、EUのK4P(Knowledge4Policy)は政策と研究者を結ぶ仕組みとして、日本の施策を考えるうえで参考になる。

また、欧州では、大学が地域イノベーションエコシステムの中核となるべく、Universities 4.0(第4世代の大学)という概念のもと、産業界や公共部門と緊密に連携する大学の社会的貢献と影響力をより明確に示す必要性が認識されている。S3(Smart Specialization Strategies)は、地域開発政策に科学技術・イノベーション(STI)要素を取り入れ、産業・教育・イノベーション政策を統合し、地域の比較優位性を生かす戦略である。これらの政策も日本にとって、重要な視点である。

■ 次期科学技術・イノベーション基本計画への14の提言~世界の主要プレーヤーとして生き残るための処方箋(山野宏太郎 三菱総合研究所〈MRI〉政策イノベーションセンター科学技術・イノベーション推進グループグループリーダー)

近年の地政学的情勢や、国内の社会課題等を踏まえ、一人ひとりのウェルビーイングを実現するため、科学技術とイノベーションによるさまざまな価値の創出と社会システムの変革が必要である。当社もこれまで日本の科学技術・イノベーション政策に関わってきたこともあり、今般、次期基本計画の策定に向け、独自に研究を進め、その方向性として次の3点を提示した。

一つ目の(A)「世界における不可欠な存在としての日本」は、量的競争ではなく、日本の独自技術や強みを生かして他国からの信頼を得る戦略。

二つ目の(B)「ウェルビーイングを起点とした政策」は、技術シーズ起点から脱却し、国民一人ひとりの幸福に寄与する価値創出を志向すること。

三つ目の(C)「STIシステムのリノベーション」は、産学のオープンイノベーション不足や組織の硬直性を改善し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進すること。

また、これら3点を進めるうえで、(D)「STI政策の実行体制」の省庁横断型再編の重要性を示した。

(A)~(D)の方向性における具体的な提言として、(A)については、世界技術で競争力を発揮するグローバル・スペシャルティ・リーダー(GSL)企業の創出や、グローバルベストチームによる「戦略的優位性・不可欠性」の獲得。(B)については、Society 5.0からのSTI政策体系の再確認や、ウェルビーイング実現のための社会課題領域への研究開発投資の拡充。(C)については、新たなプレーヤーを巻き込んだ研究開発システムの強化・更新や、企業におけるイノベーション創出力向上等のための社内起業家育成。(D)については、次期基本計画における複数政策領域への重点化や、行政機関におけるインテリジェンス機能の強化――を挙げた。

【産業技術本部】

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