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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年7月3日 No.3689 生物多様性における評価指標の最新動向 -有識者を招いてのNP経営推進のための懇談会を開催/経団連自然保護協議会

経団連自然保護協議会(西澤敬二会長)は6月4日、有識者を招いてのネイチャーポジティブ(NP)経営推進のための懇談会をオンラインで開催した。東京大学先端科学技術研究センターの森章教授から、生物多様性における評価指標の最新動向について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ 人為要因による大量絶滅時代

節足動物に次ぐ大きな動物群である軟体動物門において、人為要因により生物種の劇的な絶滅が生じていることを指摘した論文が発表された。これまでも、種の絶滅は生じているが、自然要因によるものと認識されていた。論文では、生物圏の健全性を測る指標を用いて得られたデータを根拠として提示し、土地利用の変化など人間による活動が原因であると指摘したため、大きな話題となった。

■ 生物多様性は新たなリスクファクター

世界経済フォーラムが公表している「グローバルリスク報告書」では、生物多様性が気候変動と並ぶリスクファクターとして挙げられている。

こうしたなか、欧米を中心とする大手金融機関が「金融による生物多様性誓約」に署名する動きや、2030年までに生物多様性の損失を防ぎ、回復するという世界目標に機関投資家が貢献することを目的とするイニシアティブ「Nature Action 100」などが設立されている。

すでに、生物多様性に係る金融界・産業界によるイニシアティブは多数存在しているものの、道のりはまだ険しい。例えば、23年の英国の研究者らによる報告では、世界の大企業100社のうち3分の2は生態系再生に取り組んでいるものの、費用や成果までを含めて報告しているのは4社のみである。

■ 複数指標を活用し、効果的な解決策を

生物多様性の損失が実体経済や金融システムに負の影響を与える懸念は、いまや国際的な共通認識となっている。このため、生物多様性に係る適正な評価手法やツールの開発に対する関心が高まっている。

現在、さまざまな企業がLEAPアプローチ(注1)に取り組んだり、IBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool=生物多様性評価ツール)(注2)が活用されたりしている。しかし、気候変動分野とは異なり、絶対的な指標は存在せず、有効な指標が定まっていない。そのため、複数の指標を用いるアプローチを取ることが重要となる。

これは、人間の健康評価に置き換えて考えることができる。例えるなら、BMI(単一指標)による評価は手軽に行えるが、過小評価のリスクがあるということである。人間ドックは精密な評価が可能であるが、高頻度で行えるものではない。多くの人々は、汎用的な複数指標を用いる定期健康診断を受診し、適宜、人間ドックを活用して自身の健康状態を評価している。

生物多様性の評価も同様に、単一指標ではなく、複数の指標を活用し、効果的な解決策を考えることが必要である。

(注1)自然との接点、自然との依存関係、インパクト、リスク、機会など自然に係る課題の評価を行うため、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が開発した統合的な手法。Locate(発見)、Evaluate(診断)、Assess(評価)、Prepare(準備)により構成される

(注2)地域における絶滅危惧種の分布など、生物多様性や重要生息地に関する具体的情報を地図上に表示するアプリケーション

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