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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年10月9日 No.3700 米国の外交政策と国際秩序の行方に関する懇談会を開催 -アメリカ委員会

森氏

経団連のアメリカ委員会(澤田純委員長、赤坂祐二委員長、森田隆之委員長)は9月19日、慶應義塾大学法学部の森聡教授を迎え、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。第2次トランプ政権の外交政策と国際秩序の変容、わが国への示唆について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ トランプ外交の特徴と国際秩序の変容

伝統的に、米国を分析する際は制度に注目してきた。米国では、司法や議会などさまざまな制度が抑制機能を持つと説明されてきた。だが、トランプ大統領のもとではそれが十分に機能せず、大統領自身の最終判断に依存する意思決定が顕著に見られる。そのため、制度中心の説明も必要だが、それだけでは不十分であり、大統領の権力行使そのものを軸とした分析が求められる。

トランプ政権をどう捉えるか。トランプ現象は一時的な「イベント」ではなく、米国外交の長期的な「トレンド」として定着しつつある。政権交代によって変化する部分もあるが、関税や対外技術流出規制などは超党派で継承されており、見落とすべきではない。

トランプ大統領の対外姿勢の性向を「脱価値的」「一国主義」「利益誘導政治」「紛争仲介志向」に整理できる。

民主主義・法の支配・人権を重視せず、米国の平和と繁栄は他国と切り離して存立可能とする一国主義的発想のもと、国内支持基盤や特定団体の利益を優先し、体系性のない政策が展開される。その一方で、ノーベル平和賞獲得を望むほど紛争仲介に強い関心を示す点も特徴である。

トランプ外交により国際秩序の変容も進んでいる。冷戦後は「価値共有」に基づく秩序が存在したが、近年は「米国ファースト」を契機に、力と利益を基調とする秩序へ移行しつつあるようにみえる。日本や欧州は引き続き価値を重視する共同体を形成し、グローバルサウスを含む多くの地域では異なる秩序が広がる可能性がある。

■ 日本の対米外交への示唆

トランプ政権は同盟国を評価する物差しを「米国にもたらす経済的恩恵」と「米国にもたらす安全保障リスク」の2点に置いている。

日本は関税合意によって前者をクリアしたが、今後も「見捨てられない存在」であり、「死活的利益」と見なされ続けるためには経済的価値の提示が不可欠である。投資等を通じて米国内に日本の重要性を積極的に発信し、首脳レベルから草の根レベルまで全層的な外交を展開すべきである。

防衛費の増額は、安全保障リスクを低減する努力という意味を持っている。

この問題を「銃(軍備)かバター(民生)か」の二項対立で考えるべきではなく、「防衛と経済の好循環」をもたらすように設計すべきである。単なる迎合ではなく、台湾有事を含む日米豪比の具体的な役割分担の明確化や、駐留経費を「同盟強靱化予算」として地域経済に還元するなど、実効性ある取り組みが必要である。

トランプ外交は不確実性を伴う。しかし、日本が主体的に戦略を描き、経済・安全保障の両面でディールを恐れず、米国にとって不可欠なパートナーであることを示すことで、日本・地域・世界の平和と繁栄が担保可能となる。

【国際経済本部】

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