
川上氏
経団連は9月11日、東京・大手町の経団連会館で、東亜経済人会議日本委員会(飯島彰己委員長)を開催した。神奈川大学経済学部の川上桃子教授から、台湾の経済情勢について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 台湾のマクロ経済情勢
2020年代の台湾経済は、コロナ禍とAIブームを契機とするIT・半導体需要の世界的な拡大を追い風に高成長を続けており、直近でも堅調に推移している。とりわけ半導体、データセンター関連のハードウエアの輸出と固定設備投資が成長を牽引している。
他方、台湾元高と円安、トランプ関税の影響により機械産業等は苦境にあり、産業間の格差が拡大している。輸出額全体に占めるエレクトロニクス産業の比率は25年上半期時点で7割を超え、同産業への依存度が一層高まっている。
■ トランプ関税とサプライチェーン再編
台湾経済は、米国企業を主な顧客とする受託生産ビジネスを通じて発展を遂げてきた。2000年代以降、ICT機器の受託メーカーは顧客の求めに応じて中国にサプライチェーンを展開し、台湾は中間財の供給を通じてこのグローバル分業を支えてきた。中国の巨額の対米貿易黒字の背後には、台湾の輸出企業の存在が指摘できる。
しかし、中国の生産環境の悪化、米中対立、コロナ禍を背景に、台湾企業の生産拠点は中国から台湾、東南アジアにシフトしている。台湾の対中投資額は10年をピークに減少しており、トランプ関税の動向も相まって、今後もサプライチェーンの脱中国化の急進展が見込まれる。
こうした脱・中国の動きは、台湾の経済構造のみならず、政治・社会にも大きな影響を及ぼしている。
内政面ではねじれ国会の構図のもと、頼清徳政権が厳しい局面に立たされている。米国市場への依存度が高い台湾にとって、トランプ政権による「相互関税」の賦課は大きな衝撃であった。台湾の暫定的な相互関税率は20%で、現在も交渉が続いている。トランプ関税のショックは頼政権の支持率にも打撃を与えている。
■ 台湾半導体産業の現状と課題
台湾の半導体産業は、最先端プロセス技術で圧倒的な強さを発揮している台湾積体電路製造(TSMC)のほか、成熟プロセスで存在感のある聯華電子(UMC)、メディアテックに代表されるファブレス企業などから成る厚みのある産業基盤を持つ。
TSMCの競争力の源泉は、徹底した顧客志向の技術サポート体制、最先端の微細加工技術、米国との歴史的なネットワーク等から成る複合的なものである。
ただし、近年は電力、水、土地、労働者、エンジニア等の高度人材の不足が深刻化している。特に高度人材の不足はTSMCの成長の制約要因となっている。
こうした台湾内部の資源制約と各国の誘致政策を背景に、TSMCは海外展開を強化し、台湾一地集中体制からの転換を進めている。
しかし、その動きは台湾の安全保障に直結すると受け止められており、世論の動揺を引き起こす側面もある。台湾社会の米国への信頼性が揺らぐなか、半導体産業の国際展開は、台湾の経済のみならず、政治にも影響を及ぼすようになっている。
【国際協力本部】