金杉大使
経団連は10月7日、東京・大手町の経団連会館で中国委員会(永井浩二委員長、島村琢哉委員長)を開催した。金杉憲治駐中国大使から、中国の内政・外交、日中関係について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 中国の内政状況
中国は複数の構造的課題に直面している。
第一に、不動産不況を背景とした消費需要の縮小と経済回復の遅れである。それでも、製造業をはじめとする個々の企業には活力が見られる。
第二に、コロナ禍や不動産不況に起因する地方財政の悪化である。
第三に「新質生産力」といわれる電気自動車(EV)、太陽電池、リチウムイオン電池の「新・三種の神器」を中心に生じている過剰生産である。中央政府の成長目標を達成するために生産を増やす一方、需要不足によりデフレ圧力が生じ、余剰分の輸出が国際的な貿易摩擦を招いている。
少子高齢化、社会保障制度や税制の問題も深刻化している。出生率は日本を下回り、当局は児童手当を含む補助金政策を導入するとともに、構造改革の推進に注力している。
中国は今世紀半ばまでに「社会主義現代化強国」を築くため、二つの中間目標(1)建国80周年に当たる2029年までに24年の中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で決定された改革を完成させること(2)35年までに中レベルの先進国に発展すること――を定めている。
■ 中国の外交状況
中国外交の柱は大きく4分野に整理できる。
第一に対米関係の安定化である。貿易摩擦や不法移民問題では米国と合意の余地がある一方、フェンタニル等の麻薬対策は解決困難とみる向きもある。
第二にロシア、北朝鮮、イラン、上海協力機構(SCO)参加国等との関係強化である。
第三に西側諸国との関係改善であるが、中ロ関係の強化やウクライナ戦争の継続を背景に、欧州との関係改善は難航している。
第四にグローバルサウスでの影響力拡大である。中国はグローバル・ガバナンス・イニシアティブ等を打ち出し、一定の支持を得ている。国際社会への米国の関与が弱まるなか、こうした動きが次第に国際社会に受容されていく可能性があり、注視すべきである。
■ 日中関係
24年11月の中国による査証免除再開を受け、政府要人の往来や経済ミッションは増加しているが、戦後80周年の節目で日中関係は停滞気味である。中国や米国に見られる「敵か味方か」という二者択一的なアプローチに対し、協力と競争は併存するという前提が重要である。
日中関係にも、戦略的互恵関係のもとで協力可能な分野はあるが、中国による日本周辺での軍事的威圧や中ロ合同軍事演習等を踏まえると、安全保障面で中国と折り合いをつけることは難しい。
26年に中国が議長国を務める日中韓サミットやアジア太平洋経済協力(APEC)等の国際会議を通じ、日本政府要人の訪中機会は増える見込みであり、首脳間の対話を通じた具体的成果の積み上げが求められている。
日中関係の難しさには双方の国民感情も影響しており、相互往来の拡大が改善に資するだろう。
安全面では、反スパイ法施行以来、日本人の拘束例があるが、監視社会であり、一般犯罪リスクは相対的に低い。反スパイ法の運用基準は不透明だが、一定の相場観が形成されつつある。
14億人市場で得たノウハウをグローバルに生かすためにも、中国を定期的に訪問し、定点観測することが必要である。中国の変化を的確に把握し、正しく恐れ、冷静にリスクを評価することが肝要である。
【国際協力本部】
