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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2025年11月6日 No.3704 会社法改正に向けた論点 -経済法規委員会企画部会

北村氏

経団連は10月10日、東京・大手町の経団連会館で経済法規委員会企画部会(大内政太部会長)を開催した。関西大学法科大学院の北村雅史教授から、会社法改正に向けた論点について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

法務省は2025年4月から、法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会で、会社法改正に向けた検討を進めている。同部会には私も委員として参加しており、そのなかでの主な検討事項を説明する。

■ 従業員等に対する株式の無償交付

現在、上場会社では取締役等に限って、報酬として株式を無償で交付することが認められている。従業員や子会社の役職員にも株式を付与する場合は、現物出資構成による複雑な手続きが必要である。このため、会社法上で株式の無償交付の対象に従業員等を含めることが検討されている。

制度の枠組みとして、株主総会の決議を不要とし、有利発行規制に服する「A案」と、株主総会の決議を要件とするが、有利発行規制に服しない「B案」が提示されている。

A案は、従業員等への株式の無償交付は有利発行に該当しないと考える経済界の立場から支持されている。一方、特に子会社の役職員を対象とする場合には、有利発行に当たる可能性があるため、B案を採用する方が望ましいとも考えられるが、両案を併存させて企業が選択できる制度にすることもあり得る。

■ 株式交付制度

株式交付制度は株式を対価とするM&Aで用いられており、その対象拡大が議論されている。具体的には、実質要件による子会社化に加え、外国会社や持分会社を子会社化する場合も対象に含めることが検討されている。

経済界の要請を踏まえ、すでに子会社化した後に追加で株式を取得するケースも検討課題となっている。ただし、追加取得については、株式交付は新たに親子会社関係を創設することを前提とする組織再編行為である点を踏まえた制度設計が求められる。

■ バーチャル株主総会等

現在、産業競争力強化法に基づき、経済産業大臣および法務大臣の確認を受けた上場会社のみが、バーチャルオンリー株主総会を開催できる。今後は、会社法上でも制度化し、全ての会社が開催できるようにする案が議論されている。

物理的な会場を設けない株主総会は、株主の権利行使のあり方に大きな影響を与えるため、株主保護の観点から定款でその旨を定めることが適当であると考えている。

一方で経済界からは、災害や感染症の拡大など、緊急時の開催を想定し、定款の定めを要件としない仕組みを求める意見が出されている。

■ 実質株主確認制度

上場会社では、中長期的な企業価値の向上に向け、株主との建設的な対話が重視されている。しかし、機関投資家の多くは株式の保管や管理を銀行などに委託しており、株主名簿上の名義人と実際の投資者(実質株主)が一致しないことが多い。現行法には、大量保有報告制度を除き、企業が実質株主を把握する仕組みは存在しない。

このため、企業が実質株主に情報提供を求めることができる「実質株主確認制度」の導入が議論されている。制度の実効性を確保するためには、情報提供を怠ったり虚偽の情報を出したりした場合の制裁として、過料や議決権停止を設ける案が示されている。

経済界は、特に外国法人への適用を念頭に議決権停止を支持しているが、義務違反のない株主の議決権を誤って制限することで株主総会決議の有効性に影響しないようにする検討も求められる。

■ 事前確定型決議

上場会社では、事前の議決権行使により決議の成否が株主総会開催前に決していることが多いにもかかわらず、適切な議事運営をしなければ株主総会決議の取消事由に該当することがある。上場会社は、多大な労力をかけて株主総会の準備を万全にしているが、それ故に株主総会は有益な対話の場となっていないとの指摘もある。

このため、株主総会の招集に際して定められた一定の時までに事前の議決権行使がされた結果、株主総会の決議の要件を満たす場合には、会議体としての株主総会を開催しなくても、株主総会の決議があったものとする制度の導入が議論されている。この制度は株主権を縮減するものといえるから、定款の定めを要するなど、慎重な制度設計の検討が必要である。

【経済基盤本部】

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