経団連は12月16日、「『科学技術立国』実現に向けた緊急提言」を公表した。
高市新政権が「日本成長戦略会議」を立ち上げ、成長投資に向けた政策の具体化が図られるこの機を捉え、経済界として打ち込むべき政策を示したもの。世界的に研究開発競争が激しさを増すなか、経済界は、経営者自ら「コストカット型」から「投資推進型」へマインドセットを転換し、官民連携で科学技術立国を牽引していく。
本提言では、地政学リスクの高まり、AIなど先端技術の急速な進展、気候変動の深刻化など、従来型の発展モデルに見直しを迫る構造的変化を指摘。そのうえで、多様な文化や価値が重層的に共存する「価値多層社会」の構築にわが国が貢献すべきであるとした。
わが国はモノづくりの技術・データ、開発・製造における擦り合わせプロセスなどの強みと、「価値多層社会」を目指す思想・哲学を最大限活用し、国際社会に不可欠な存在となる「科学技術立国」の実現を志向している。
実現に向けた第一の柱として「価値創造人材の育成・循環」を掲げた。産学間・国内外の人材移動の加速のため、クロスアポイントメント制度の活用や、海外研究者の招致、日本人研究者の海外派遣の拡大の必要性を示した。
教育については、偏差値偏重から脱却し、好奇心・探究心を育む仕組みへの転換を提起。そのほか、人口動態を踏まえた大学の再編・統廃合、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の成功モデルの展開、エンジニアリング人材の確保のための高等専門学校(高専)の新設・定員拡大、博士・ポストドクター(ポスドク)の処遇改善など、人材基盤の総合的強化を求めている。
第二の柱として「官民による研究開発投資の強化」を挙げ、科学研究と技術開発の方法論の違いを明確化し、それぞれに適した支援を講じるべきとした。そのうえで、企業は「コストカット型」から「投資推進型」へ転換するとともに、基礎研究から社会実装まで果敢に投資を拡大していく。
政府には、従来の文部科学省の予算枠内にとらわれない、科学研究費助成事業(科研費)倍増をはじめとした基礎研究への大幅な予算拡大を求めている。加えて、個人資産の活用や寄付税制の改善等を通じた民間資金の呼び込みにより、科学研究の多様な財源確保を図るべきとした。
第三の柱として「司令塔機能の強化」を提起。短期的には、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)と「日本成長戦略会議」の連携による科学技術政策の成長戦略の一つとして位置付けるとともに、2040年を見据え、省庁再編を含む抜本改革により、科学技術政策をシームレスに推進できる体制を整備する必要があるとした。
経団連は今後、研究開発投資の拡充等に主体的に取り組むとともに、「日本成長戦略会議」等のさまざまなチャネルを通じて、政府へ必要な政策を打ち込み、科学技術立国の実現に向けた改革を進めていく。
【産業技術本部】
