経団連は12月16日、意見書「持続的な成長に向けたコーポレートガバナンスのあり方」を公表した。概要は次のとおり。
■ はじめに
わが国の成長戦略の一環としてコーポレートガバナンス改革の推進が位置付けられてから10年超が経過した。この間、社外取締役の増加や開示の充実、資本効率を意識した経営が浸透してきた。
他方、「ガバナンスの形式は整ったものの実質が伴っていない」「成長投資や株主以外への還元が十分ではない」「短期的な利益を求める一部の投資家等が、企業との建設的な対話を通じた中長期的な価値向上に資する機能を発揮していない」との指摘もある。
今後は、企業が中心となって価値創造を支える、実質的なガバナンス改革を推進し、自律的な企業活動を後押しする施策・仕組みへと転換していく必要がある。
■ これまでの改革を踏まえた今後の課題
1.企業(事業会社)の課題
持続的な成長のためには、目先の資本効率改善にとらわれたマインドを転換し、研究開発、設備投資、人的資本、事業投資等、積極的な成長投資へとかじを切るべきだ。その際、経営者はパーパスと中長期的な成長の方向性を明確化し、経済的価値と社会的価値の両面から価値創造ストーリーとして提示することが重要だ。
経営資源の配分には、基本方針と優先順位を示し、ステークホルダーに可能で適切な範囲で説明していくことが求められる。
来たるコーポレートガバナンス・コードの第3次改訂では、原則を最小限とし、経営者が自ら考え、自らの言葉で語ることを促すものとなるよう、大胆なスリム化・プリンシプル化を図るべきだ。
2.株主・投資家の課題
投資家は企業の価値創造の「共創者」として、企業のパーパスや価値創造ストーリー、事業特性、資本配分等を理解したうえで建設的対話を行うことが不可欠だ。とりわけ、企業の成長がリターンとして顕在化するには一定の時間を要することや、想定される事業リスクに応じてバランスシートの構成も異なること等も踏まえ、中長期の企業価値向上を共通の目的とした対話文化を定着させることが重要だ。
議決権行使では、形式的基準に依存せず、企業の実情や説明を踏まえた判断が不可欠だ。
議決権行使助言会社は、評価基準や分析プロセスを透明化し、企業の実情を踏まえた助言を行うべきであり、政府は、登録制への移行等を検討すべきだ。
ESG(環境・社会・ガバナンス)評価機関・データ提供機関は、評価手法の明確化と、企業の実態を丁寧に反映する仕組みへの転換が求められる。「ESG評価・データ提供機関に関する行動規範」について必要な改訂を行うとともに、実効性を向上すべきだ。
3.株主総会や開示、株主権等の課題
今後の制度見直しでは、ソフトローのみならず、会社法や金融商品取引法といったハードローも一体的に見直す必要がある。
有価証券報告書の総会前開示については、形式的な総会前開示ではなく、議決権行使に真に必要な情報を、対話を通じ提示する仕組みが望ましい。
株主提案権については、議決権300個要件は廃止すべきであるほか、行使期限の見直しや業務執行事項の提案制限等についても検討すべきだ。
■ おわりに
コーポレートガバナンス改革の目的は、規範の遵守そのものではなく、持続的成長を支える企業行動の定着だ。企業・投資家・制度がそれぞれの役割を果たし、実質的改革を進めていくことが期待される。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】
