経団連は11月3~6日、小坂達朗審議員会副議長・バイオエコノミー委員長と岩田圭一同副議長・同委員長を団長とし、総勢16人から成る訪欧バイオミッションをオーストリア・ウィーンに派遣した。
本ミッションは、同委員会として初の欧州視察であり、欧州最大規模のバイオイベント「BIO-Europe 2025」の開催機会を捉えたもの。わが国のバイオエコノミー確立に資する知見を獲得すべく、オーストリアの政府機関や企業・スタートアップ等と多くの対話の機会を得た。
同国の最先端の取り組みやスタートアップ振興施策、企業動向等を聴取し、国際的なネットワークを構築することで所期の目的を達成した。概要は次のとおり。
■ オーストリアのバイオ産業エコシステム
ウィーン・バイオセンターを訪問
BIO-Europe 2025には、60カ国以上から約6000人が来場し、約3200の企業が参加した。
日本貿易振興機構(ジェトロ)も広報ブースを設置し、大手製薬企業幹部とのネットワーキングが実施された。各国もブースを出展するなか、とりわけ韓国は、複数の政府関係機関が連携して出展し、同国のバイオ医薬品産業の勢いが見られた。
オーストリア農業省や国交省、経済省と懇談した。同国は農業省が中心となり、2019年、化石資源依存を脱却し、再生可能資源を基盤とした経済構造への転換を目指して「バイオエコノミー戦略」を策定した。重点分野としてライフサイエンス(医薬品・医療機器)やバイオ燃料、木材利用、バイオマス発電等を掲げて産学官連携を強化している。
大学・研究機関・企業が集積する「ウィーン・バイオセンター」では、スタートアップや支援機関との意見交換を実施した。オーストリア研究促進庁(FFG)では、スタートアップの研究開発やグローバル展開、事業提携活動に対して年間9000万ユーロ(約162億円)を提供しているという。
このようなスタートアップ支援策や人材交流を通じてイノベーションを加速させる好循環が生まれていることを確認した。
■ 循環型経済とバイオ医薬産業の先進事例
1.UNIDO
途上国投資や技術移転を支援する国際連合工業開発機関(UNIDO)の訪問では、エジプトでの農業残渣活用研究や、南アフリカ共和国におけるカネカの生分解性プラスチックを用いた食品容器開発など、UNIDOが支援するプロジェクトの説明を聴くとともに、循環型経済の実現に向けて意見交換を行った。
バイオプラスチックや再生可能資源活用技術を通じた途上国への市場参入、国際共同研究、グローバルサプライチェーンへの参画など、日本企業の可能性が示唆された。
2.ウィーン市立バイオマス発電所
同発電所は、40年までの再生可能エネルギー比率80%達成を掲げるオーストリアにおいて、ウィーンの電力と地域熱供給を支え、脱炭素に向けた重要な役割を担う。
ウィーンの取り組みは、日本での都市部の熱需要や再エネ導入に関する課題と共通しており、地域資源を生かした循環型社会モデル構築に応用可能であることがうかがえた。
3.ベーリンガーインゲルハイム社
同社は、欧州最大級の医薬品開発製造受託施設(CDMO)を保有し、グローバルな受託製造の中核的存在だ。
同社は売上の23%を研究開発に投資。製造プロセスの最適化を進めるとともに透明性を重視し、年間40回に及ぶ施設受け入れを実施するなど、バイオ医薬品受託製造の高度化を体現している。
日本国内にも3拠点を構え、23年からの5年間で約500億円の投資を計画。協和キリン等との連携を通じて、グローバル市場での競争力をさらに強化している。
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今回得た知見は、日本でのバイオエコノミー確立とバイオトランスフォーメーション(BX)実現に資する。広く会員企業に共有し、政策提言などの委員会活動に生かしていく。
【産業技術本部】
