ヒルマン氏
経団連は11月21日、東京・大手町の経団連会館で、米国・ジョージタウン大学ローセンターのジェニファー・ヒルマン教授を招き、米国の関税政策および米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)について説明を聴くとともに意見交換を行った。説明の概要は次のとおり。
■ 米国の関税急拡大と関税の「2本立て」構造
トランプ政権下で米国の平均関税率は就任時の2.4%から16.8%へ急上昇し、1930年代以来の高水準となった。
急上昇した関税は、(1)国際緊急経済権限法(IEPA)を根拠とする一律の相互関税(2)通商拡大法232条による国家安全保障関税――が並存する2本立ての構造となっている。
232条関税は鉄鋼・アルミ、銅、自動車、木材、家具等に高率で課され、現在争われているIEPA訴訟の結果に左右されず残り得る。日本との合意はIEPA一律関税を15%に抑えつつ、232条の個別調査でも日本の除外および上限制を確保する内容で、両系統が交差している。
■ IEPA関税の最高裁判断と政権の次の一手
合衆国憲法では「関税を課す権限は議会にある」とされている。IEPA課税の是非を巡る訴訟では、下級審で違法判断が相次いでいるが、IEPAでは「輸出入を規制する権限が大統領に与えられる」とされている。
現在は最高裁判所でIEPAの「規制」という表現に関税権限が含まれるかが争点となっている。11月5日に口頭弁論が行われ、12月中にも判断が出る可能性が高いとの見方が多く、学界では権限が否定されるとの見方が優勢となっている。
ただし合成麻薬フェンタニルによる緊急事態に基づき、対カナダ・メキシコ・中国関税のみ部分的に認められる可能性も残る。
仮に否定されても、トランプ政権は関税を手放さず、通商法122条(国際収支危機を理由に最大150日間15%一律関税)や、国別の同301条調査を通じた追加関税へ移行し、実質的に関税を積み上げる公算が大きい。
IEPA関税が否定されれば、日本など合意国のディールは前提が崩れ、再交渉・再調整の余地が生じる。そもそも多くの合意は正式発効前で完成しておらず、各国は「より悪い関税を避けるための受け身の妥協」として受け入れている。
関税コストは企業の価格転嫁を通じて物価上昇を招き、米国内の反発が拡大している。物価高が最近の民主党躍進の一因ともみられ、最高裁判断と世論の両面から変化が起き得る。
■ USMCAレビュー
USMCAは2026年に公式レビューが行われる。従来レビューは点検程度と考えられていたが、トランプ政権は修正・改定のプロセスと位置付けた。
米国はUSMCA経由で中国製品が米国内に流入するのを防ぐことに関心がある。中国製品の迂回流入阻止を軸に改定を狙うが、北米サプライチェーンがすでに強固に結び付いている現状では協定の全面解体は現実的でなく、原産地規則(貨物の原産地を決定するルール)強化など部分修正のうえで維持される見通しが強い。
■ WTO改革
経団連が2025年10月に公表した提言「『WTO2.0』の構築に向けて」を歓迎する。各国政府を動かすためには、経済界が世界貿易機関(WTO)改革を望んでいるというメッセージを発信することが重要。「声なき支持者」は米国内にも決して少なくない。
【国際経済本部】
