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月刊 経団連 巻頭言 諸国漫遊

岡本圀衞 (おかもと くにえ) 経団連審議員会副議長/日本生命保険会長

といっても外国ではない。巡るのは日本国内である。私の名は変わっていて、よく人から「水戸黄門(光圀)と同じ圀ですね」と言われる。それが、黄門様を好きになった理由だが、諸国漫遊の先達としても尊敬している。実際は常陸の国内だけだったらしいが、テレビを見ると全国各地に行って悪をただしている。

私は隠居しているわけではないし、悪をただすわけでもないが、諸国を巡るのを無上の喜びとしている。というのもゴルフが下手で、ライオン(百十の王)どころか猛獣(もう十)のため、そちらへ押しやられたきらいはあるが…。

土地土地には歴史や文化や芸術などを色濃く残した城、寺社、宿場、駅舎、文学館、国宝などが散在している。はじめはあまり意識しなかったが、これがこだわりだすとなかなか面白い。だから今は、そのどれでもよい。何かあれば探して飛び込むことにしている。帰ってはノートにせっせと感想を書き込む。至福の時である。

土地の人は、そうしたものを大切にし、誇りにしているので、何か質問すると目が輝く。言葉を交わしたり、説明を受けたりするのがとても楽しく、時間がたつのを忘れる。

行けば必ず何がしかのお土産をドッサリ買い込む。日本経済の復興に少しは役立っている(?)だろうし、そもそもこうした旅が、後日、お客様との会話の円滑剤にもなる。

日本にいて、日本をもっと深く知る。自然の風景も、生活も、食べ物も、温泉も、そして歴史も…。さまざまな土地に足を運ぶことで、私たちがこの日本という国土から受けている恩恵をしっかりと肌で感じ、ますます好きになる。国土に対して強い愛着を持つことはとても大切なことである。

しかし、これだけの素晴らしい土地も、その多くが過疎である。日本の国土の平均的な発展は望むべくもないが、それでも何らかの手掛かりはないだろうか。一方の都市は人や車でギュウギュウ詰め、お世辞にも生活の質(QOL)や子育て環境が良いとはいえない状況では、少子化の解決もままならない。

豊かな国土、豊かな社会とは何なのか。旅の都度、考えさせられる。

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