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月刊 経団連  巻頭言 環境、切迫感はプロセスイノベーションの母

友野 宏 (ともの ひろし) 経団連副会長/新日鐵住金社長

戦後、日本の鉄鋼業は積極果敢にプロセスイノベーションに取り組み、30年ほどで、技術で世界をリードするようになった。これは多くの先人の努力のたまものではあるが、切迫した日本の経済環境がそうさせたということも忘れてはならない。

灰じんに帰した日本の国土の復興には、鉄鋼は必須の産業素材であった。「鉄は産業の米」といわれるゆえんである。製鉄は、高炉で鉄鉱石を溶かし、不純分を取り除き(精錬)、鋳型で固めた(鋳造)後に、製品の形に伸ばす(圧延)という諸工程で構成される。当時の先進工業国であった米国を支えた製鉄プロセスは、中型の高炉とそれぞれ非連続で独立した工程の組み合わせとして標準化されていた。

しかし、この製鉄プロセスをそのまま導入するには当時の日本の国力では賄いきれないほどの莫大な投資が必要であった。生産効率を飛躍的に向上させ、設備投資を大幅に圧縮できる革新プロセスへのチャレンジしか道は無かったといった切羽詰まった状況に置かれたのである。高炉の大型化、平炉に代わる転炉での精錬、鋳造・圧延の連続化等、アイデアはあったものの工業化できていなかった革新的プロセスにチャレンジし、これを成功させ、技術で世界をリードするようになったのである。

一方、米国は標準化され十分な製造能力を有していたが故に、リスクを冒して新しいプロセスにチャレンジするインセンティブはほとんど働かず、あっという間に日本に追い抜かれた。

今日、日本が確立し標準化された製鉄機械をハードメーカーから購入することで、そこそこの製品を製造することは、どの国の企業でもさほど難しいものではなくなっている。製造プロセスに決定的な差別化が無ければ、競争力の差別化もおのずと限定的にならざるを得ない。

現実に日々の競争に打ち勝つことはもちろんであるが、日本がフォロワーを突き放すプロセス革新へのドライビングフォースをいかに生み出すのか、そのために切羽詰まった環境を安定のなかでいかに用意するかが、まさに問われているのである。

戦後の日本鉄鋼業が強制的に置かれた大波をバーチャルにつくり出すこと、これは鉄鋼業に限らずすべてのビジネスに問われている共通の課題であろう。

産業界、学界、政界、官界の力の結集が強く求められている。

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