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月刊 経団連 巻頭言 働き方改革のススメ

岡藤正広 (おかふじ まさひろ) 経団連審議員会副議長/伊藤忠商事社長

世の中、空前の人手不足だ。経営資源の三大要素であるヒト、モノ、カネのうち、モノは先進国や中国でのデフレ懸念が示すとおり過剰気味であり、カネについてもいまだ日欧で続く量的金融緩和のため金利が付かないほど余っている。その一方で、今の日本ではヒト不足が経営上の深刻な問題となっている。

ヒトの確保が難しくなるなかで、企業が成長を続けるための選択肢としてまず挙げられるのは、人材教育や機械化・IT化であろう。ただ、教育の効果が出るには時間がかかるし、またヒト不足のすべてが機械で置き換えられるわけでもない。そうなれば、現有のヒトのパワーアップ、すなわち働き方を変えて、多様な人材を今まで以上に活用できる環境をつくることこそ、企業として最も有効かつ現実的な選択肢である。

当社では、業務の効率アップを目指すとともに、女性や育児・介護などで夜の残業が制限される社員が活躍の場を広げられるように、「朝型勤務」を導入している。具体的には、夜20時以降の勤務を原則禁止し、その代わりに朝8時までの早朝勤務に割増賃金を支給、軽食を無料配布するものである。その結果、導入前と比べて残業時間が総合職で月に12%程度減少した。

働く側にとっての大きな利点は、平日の夜に自己研鑚やネットワークづくり、そして家族だんらんや家事分担のための時間を得たことであろう。会社にとっても、人材の活用範囲が広がり業務の効率化が進んだだけでなく、時間外手当てが7%減少、オフィスの電気使用量も6%減少するなど、軽食の支給費用を上回る経費削減の効果を得ることができた。

「朝型勤務」は、子育て世代や女性の社会進出を支援するかたちで、安倍総理が唱える「一億総活躍社会」の実現にも資するほか、残業が減って余った時間は消費拡大、経済活性化に結び付くなど、まさに社員よし、会社よし、社会よしの「三方よし」である。従来の枠組みにとらわれず、それぞれの組織に合ったかたちで働き方改革を検討してみてはいかがだろうか。

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