1. トップ
  2. 月刊 経団連
  3. 巻頭言
  4. 金融機関とフィンテックのこれから

月刊 経団連 巻頭言 金融機関とフィンテックのこれから

永易克典 (ながやす かつのり) 経団連副会長/三菱東京UFJ銀行相談役

金融とITの融合によって創出される新しい金融サービスおよびその提供企業を指すフィンテックという言葉が注目されるようになって久しい。スマートフォンを使って現金なしで支払いができるようになったほか、銀行店頭でのロボットによる接客やコンピューターによる資産運用が現実のものとなりつつあるなど、技術の進歩が金融サービスを大きく変えようとしている。

リーマンショック後、米西海岸を中心に先進技術や斬新なビジネスモデルを武器に革新的な金融サービスを提供するベンチャー企業群が誕生。以降、膨大な投資流入もあり、金融分野で多くのベンチャーが生まれ、さまざまな新サービスが提供されつつある。わが国でも、昨年政府が発表した日本再興戦略において決済高度化が議論されたこともあり、フィンテックが注目され始めた。

こうした動きに対応すべく、大手行も経営課題としてフィンテックを含むICTを活用した事業強化を進めるようになった。例えば、三菱東京UFJ銀行はグローバルでイノベーション専担組織を組成、国内ではアイデアコンテストやフィンテック育成プログラムを実施するなど、ベンチャーや外部企業の知見を活用したオープンイノベーションに注力している。

決済領域から始まったフィンテックの攻勢は、米国に加え、欧州やアジア、特に直近ではインド・中国の活発な投資を背景に預金や貸出領域も含めた金融業務全般に拡大、個別分野で既存行のシェアを奪う「脅威」となりつつある。一方で、攻め込まれた既存金融機関がベンチャーや異業種企業と連携して、利便性の高いサービスを自行内に取り込み、新しい事業拡大の「機会」を見いだす動きも顕在化している。

わが国では、フィンテックによる変化を一般顧客が実感するまでには至っていないが、金融市場の発展を図り、国際競争に取り残されないようにするためにも、金融分野のイノベーションにこれまで以上にスピード感を持って取り組んでいく必要があろう。

「2016年12月号」一覧はこちら

「巻頭言」一覧はこちら