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月刊 経団連 巻頭言 「令和の黒船」 ―Society 5.0へアクセルを

日比野 隆司 (ひびの たかし) 経団連審議員会副議長/大和証券グループ本社会長

ダイヤモンド・プリンセス号が寄港したころから始まったウィズコロナの日常も、半年余りが経過した。新型コロナは経済社会に大きなダメージを与えたが、将来、明治維新に先立つ黒船来航のように、日本の歴史の転換点として振り返ることになるかもしれない。ぜひともそうあってほしいと願う。

コロナ禍への対応を通じて顕在化した多くの課題のなかで、日本社会におけるデジタル活用の著しい遅れはその筆頭に挙がる。マイナンバーにまつわる諸問題をはじめ、昭和を彷彿させる行政手続きの実態も随所で露呈し、渾身の財政出動も執行段階でその政策効果が減殺されたのは残念だった。

他方、感染拡大防止の観点から導入に踏み切ったテレワーク、遠隔医療、遠隔教育などの経験は、日本社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速するきっかけになりそうだ。とりわけ、多くのビジネス関係者を巻き込んだテレワーク体験は、今後の働き方を根本的に変えていくことになる。デジタルツールを活用した会議、セミナー、営業活動も一気に普及、移動時間・コストを削減し生産性向上に直結している。さらに、DXが可能にするリモートなビジネス・生活様式で、地方創生への期待も高まる。

株式市場に目を転ずると、3月には日経平均で1万6000円台まで暴落した株価も短期間に年初の水準まで回復し、「株価と経済実態の乖離」が指摘された。コロナ危機対応の大胆な財政金融政策が株価を下支えしたのは間違いないが、将来への期待を先取りした値動きであることも見逃せない。株式市場の期待の中心は、「DX進展に伴うビジネス機会、企業収益の拡大」である。

米国では、先端テック企業が中心のNASDAQの上昇幅はNYダウを圧倒し、感染拡大のなかで史上初の1万ポイント超えを達成した。コロナ禍を通じて加速したデジタルシフトは、それをリードするGAFAM(注)の時価総額を、東証全体のそれを凌駕する6兆ドルにまで押し上げた。日本でも、コロナ禍を起爆剤とし官民挙げてDXに取り組むことで、社会全体の生産性、そして企業価値が高まることを株式市場は織り込みつつある。

経団連の2020年度事業方針でうたわれているとおり、今こそDXを通じたSociety 5.0実現に弾みを付け、レジリエントな経済社会への大変革に取り組む時である。

(注)GAFAM:グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト

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