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月刊 経団連 巻頭言 企業に求められる人権対応

二宮 雅也 (ふたみや まさや) 経団連審議員会副議長/損害保険ジャパン会長

2000年の国連ミレニアム・サミットで「人間の安全保障」を謳ったアナン元事務総長が、2018年にこの世を去り、彼の指示を受けて「ビジネスと人権に関する指導原則」をまとめた国際政治学者ジョン・ラギー教授も昨年亡くなった。彼らの思いは、未だ実現されたとは言えない。そのような中で、サプライチェーンにおける人権・労働問題は強い関心事となり、EU主要各国では、人権デューデリジェンスの義務化が加速する。

日本においても、2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいて人権尊重が盛り込まれ、重要な経営課題との認識が示された。ただ、指導原則に基づいた取り組みを行っている会員企業は増えつつあるものの道半ばだ。経団連では「企業行動憲章実行の手引き」の人権部分を拡充するとともに、具体的な取り組みを記したハンドブックも策定し、企業の実行を後押ししている。

人権デューデリジェンスへの積極的な取り組みは、事業運営が人々に与える負のインパクトを減らすだけでなく、社会からの信頼を高め、優秀な人材を獲得し、自社の国際競争力を向上させるなど成長戦略に資する正のインパクトをもたらす面にも注目すべきだ。

日本企業は、人権尊重の背景をよく理解し、重要な経営課題として経営者自らがコミットメントすることが出発点だ。そのうえで、サプライチェーン全体のデューデリジェンスに目を配り、マテリアリティー(重要性)と人権問題のセイリエンス(深刻性)を勘案した着実な実行が求められる。

格差拡大、生態系危機、気候変動、さらに新型コロナウイルス感染症の影響もあり、社会的に立場の弱い人々が直面する課題は深刻化している。国境を超えた世界規模での対応が必要にもかかわらず、米中対立が激化するなど国際協調主義は危機に直面する。

分断から連帯へ、対立から協調へ。国家の枠組みを超え、一人ひとりの生存と生活そして尊厳を守る「人間の安全保障」は日本が長年にわたり世界に提唱してきた理念だ。企業は今こそ人権問題を自分ごととして捉え、手段を目的化することなく、全ての根源にこの理念を位置付け、地球規模課題の解決に取り組む時ではないか。

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