放送、そしてテープやディスクなどのパッケージメディアが生まれたのは20世紀になってからである。1946年創業のソニーはトランジスタラジオやウォークマン、CDといった放送とパッケージメディアを前提とした商品で成長した企業だった。しかし、21世紀に入るとソニーの経営はネットワークという新しいメディアの挑戦を受けるようになった。2005年にSony Communication Networkというインターネットプロバイダーの社長になった私は、社名をSo-net Entertainmentに変更した。ソニーから独立したいという思いと、「21世紀はエンタテインメントの時代で、その担い手となるメディアはネットワーク」という想定があった。この想定は間違っていなかったと思うが、最近エンタテインメントそのものの変化を感じている。
エンタテインメントは、古代オリンピックのスポーツから音楽、演劇など全てライブだったが、20世紀のメディアにより「いつでも」という価値が生まれた。放送の録画、DVD、Netflixといったビデオオンデマンド(VOD)などである。
最近の変化は技術によるライブへの回帰である。それを初めて認識したのは、2020年4月のトラヴィス・スコットのバーチャルライブで、オンラインゲーム「フォートナイト」の空間上に1200万人を同時に集めた。最近Vチューバーのライブが多くの人をひきつけている。ラスベガスの球体型アリーナ「スフィア」も技術によるライブの場といえる。当社もNFLの試合でセンシングされた選手のデータをリアルタイムでアニメーション化し、配信するソリューションを提供している。
21世紀のライブは、技術進化により実現される「今、その時」という新しいライブエンタテインメントである。私はこれを「リアルタイムエンタテインメント」と呼んでいる。その基盤技術は、ネットワーク、コンピューティングそしてセンシングだと考えている。こうした技術によるエンタテインメントの進化に今後も貢献していきたい。