Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2014年12月18日 No.3205  第12回「経団連 Power UP カレッジ」開催 -「KAITEKI経営」/三菱ケミカルホールディングスの小林社長が講演

経団連事業サービス(榊原定征会長)は11月10日、東京・大手町の経団連会館で第12回「経団連 Power UP カレッジ」を開催し、三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長から講演を聞いた。講演の概要は次のとおり。

■ サステナビリティの危機とグローバリゼーションの進行

人類が永遠に経済成長を続け、GDPが常に拡大し続けるということが、果たして本当に可能なのか。地球環境のサステナビリティの危機という観点からすれば、われわれの企業活動は、量だけを志向するのではなく、質的な成長こそ希求すべきではないか。私は常々このような問題意識を持っている。

世界的な人口の激増に伴う水・食糧等の資源需要の拡大、深刻化する気候変動、エネルギー資源の枯渇など、グローバルアジェンダが顕在化するなか、世界の化学業界では、新たな再生可能エネルギーの利用、水・食糧問題の解消、断熱材や軽量化部材といった省エネ素材の開発、ヘルスケアの推進など、グローバルアジェンダの解決にどう貢献するかに議論が集中している。

また、グローバリゼーションが激化し、製造業でデジタル化とモジュール化が進むなか、日本企業が先行投資し技術開発を進めても、短期間で他国に追いつかれシェアを失うなど、差異化を図り付加価値を獲得することが難しくなっている。

さらに日本では、大胆な金融緩和で円高は是正されたが、高い電力コストや原料コストというハンディキャップは解決が不可能であり、さらに人口減少という課題も抱え、これらを前提に企業は経営戦略を練る必要がある。今後は、他とは異なる競争力・価値の創出「ディフェレンシエーション」と、10~100年単位という中長期の時間軸のもとでの「イノベーション」が不可欠である。自社が得意としブラックボックス化できる高付加価値部分はクローズし、他社とコラボレーションしたほうが効率的な分野は積極的にオープンにする「オープン・シェアード・ビジネス」という概念のもと、他が容易に模倣できないビジネスモデルを構築し、イノベーション創出にかかわる時間の確保に努めねばならない。

■ KAITEKI経営―新炭素社会の構築を目指して

当社は、(1)機能商品(情報電子材料・樹脂加工品等)(2)ヘルスケア(医薬品等)(3)素材(繊維原料・合成樹脂等)――を事業の三本柱としている。さらに2007年には、(1)サステナビリティ(2)ヘルス(3)コンフォート――という企業活動の判断基準を定め、石油系・石炭系の炭素繊維、有機化合物でできた太陽電池、有機EL照明、植物由来プラスチック、植物工場や植物を使ったワクチン製造、簡易採血で体調をセルフチェックするヘルスケアソリューション事業など、三つの判断基準に貢献する新規事業開拓を積極的に行っている。

加えて既存事業の選択と集中、戦略的M&Aによる成長の取り込みなど、事業ポートフォリオの再編も不断に進めている。

さらに、11年には、(1)Management of Economics(MOE、資本の効率化の重視)(2)Management of Technology(MOT、イノベーション創出の追求)(3)Management of Sustainability(MOS、サステナビリティの向上)――という三つの軸と時間軸とを組み合わせ、総合的な企業価値の最大化を目指す「KAITEKI経営」をスタートした。15年を目標年度に定め、前述の三つの判断基準を点数化した独自の経営指標のもと、達成度を定量管理しており、昨年はこの進捗状況を含む財務・非財務情報を統合したレポートを公表した。これらの目標達成率で各事業会社の業績評価や従業員の業績考課を行っている。MOS指標には「温暖化ガス排出量」や「係長級以上に占める女性社員比率」を入れるなど、定量化の方法を工夫している。

最後に、CO2は植物と動物とでキャッチボールをして地表の濃度を300~400ppmに保っているが、もしCO2が100ppmにまで低下すれば、植物は育たなくなり、結果、動物も死に絶えるという事実を考えれば、「低炭素社会」というよりも、むしろ過度な化石資源依存から脱却し新たな炭素資源も活用する「新炭素社会」を目指すべきだ。究極的にはCO2を人工光合成で炭素資源化していく「循環炭素化学」の確立という夢を持っている。09年にはグローバルアジェンダの解決に向け、世界の大学・研究所やベンチャー企業と連携する研究機関を設立しており、次世代に向け長期的な視点に立った提案を続けていきたい。

【経団連事業サービス】

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