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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2017年5月18日 No.3315 コミュニケーションを通じた「心のバリアフリー」を -1%クラブ講演会を開催

講演する福島教授(左から3人目)と真砂理事長(左)

1%(ワンパーセント)クラブ(二宮雅也会長)は4月21日、東京・大手町の経団連会館で講演会を開催した。盲ろう者(視覚、聴覚の両方に障がいのある人)として初めて常勤の大学教員となった、東京大学先端科学技術研究センターの福島智教授が、自身の体験をもとに東京オリンピック・パラリンピックに向けたバリアフリー社会の構築について講演を行った。

開会あいさつで二宮会長は、福島教授が25年前に1%クラブで障がいのある人もボランティアの支援があれば孤立せず同じ世界につながれると述べていたことを紹介し、「誰一人取り残さない」ことを掲げる国連のSDGs(持続可能な開発目標)との目的の共通性を指摘した。そのうえで、すべての人がよりよい未来をつくるには、企業の「イノベーションの力」が重要だと述べた。

福島教授の講演の概要は次のとおり。

■ 盲ろう者とコミュニケーション

目と耳が不自由であることは、テレビに例えると、音と映像の両方が切断された状態だ。私が18歳で盲ろう者となった時、コミュニケーションが閉ざされたことが特にショックであった。相手の反応だけでなく、そこに人がいるのかどうかもわからず、世界のなかで自分だけが取り残されたような孤独を感じた。しかし、指点字というコミュニケーション手段を得たことで、再び他者とつながることができた。

盲ろう者は思いを発することが難しく、判断に必要な情報を得ることもできず、支援の網から漏れることもある。全国に盲ろう者が推定2万人いるとされているのに対し、国内唯一の支援組織である全国盲ろう者協会の登録者は1000人にすぎない。盲ろう者になった後に医学的に対処できることは限られているが、コミュニケーションを通じて人と結びつくことで、彼らの生活は豊かになる。

■ オリンピック・パラリンピックに向けたバリアフリー

コミュニケーションを取るうえで障壁がある点で、外国人と盲ろう者は共通している。

オリンピック・パラリンピック開催に向け、内閣官房の「ユニバーサルデザイン2020関係府省等連絡会議心のバリアフリー分科会」に有識者として参加した。私は、ハード面でのバリアフリーも重要だが「コミュニケーションのバリアを取り除き人と人がつながること」が重要だと考える。そのためには、各自が周囲の人とコミュニケーションが取れているか、職場や家庭、近所での対応をいま一度振り返ってみてほしい。日常の対応が洗練されれば、外国人とのふれあいにも活きてくるだろう。

◇◇◇

続いて、全国盲ろう者協会の真砂靖理事長が、盲ろう者や家族に対する相談や自立訓練支援、通訳・介助員養成、タイプライター貸出等、同協会が行う盲ろう者支援について説明を行うとともに、参加者に対し活動への協力を呼びかけた。

講演を受けて二宮会長は、福島教授がその著書で「絶望=苦悩-意味」というヴィクトール・フランクル(注)の公式を「意味=苦悩+希望」と変形し、希望があれば苦悩があっても生きる意味を見いだせるとしたこと、その一方で苦悩のなかで生きることはつらく、その理由を問いかけても沈黙が返ってくるだけと、かつて遠藤周作が代表作『沈黙』で記したことに触れ、コミュニケーションこそが生きる実感を得て苦悩と沈黙を乗り越える力になるのではないかと所感を語った。そのうえで、コミュニケーションが持つ深い意味をあらためて問い直したいと述べ、会合を締めくくった。

◇◇◇

全国盲ろう者協会の活動は会費や寄付に支えられている。協会に関する情報・問い合わせは同会ホームページ(http://www.jdba.or.jp/)を参照。

(注)ヴィクトール・フランクル=20世紀オーストリアの精神科医。ナチスによる強制収容所での体験をもとに『夜と霧』を著す

【教育・CSR本部】

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