Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2019年2月14日 No.3396  減速する中国経済~構造改革と景気対策の狭間で -21世紀政策研究所 解説シリーズ/21世紀政策研究所研究委員(大東文化大学経済学部教授) 内藤二郎

内藤研究委員

中国の2018年のGDPは総額90兆309億元(約1440兆円)で、成長率は6.6%と17年の6.8%から0.2ポイント低下した。四半期ごとでも第1四半期が6.8%、第2四半期が6.7%、第3四半期が6.5%、第4四半期が6.4%と継続的に低下しており、成長の鈍化が鮮明になってきた。こうした景気減速の状況に対して政府の警戒感も強まっている。

■ 需要項目別の指標

消費については、社会消費品小売総額が38兆987億元(プラス9.0%)であった。特に自動車が通年でマイナス2.4%とマイナス成長になったことが大きい。個人消費は横ばいから徐々に低下傾向にある。個人所得税の減税の効果、全国インターネット商品・サービス小売額の大きな伸び(プラス23.9%)、独身の日(11月11日)の爆買い(取引額が過去最高の2135億元=約3兆5000億円で伸び率も昨年比プラス27%)などがあったにもかかわらず、一桁の伸びにとどまった。

投資面をみると、都市固定資産投資が63兆5600億元(プラス5.9%)であった。インフラ投資が全体でプラス3.8%となったのをはじめ、総じて伸びは低調となった。

貿易については、通年で輸出がプラス9.9%、輸入がプラス15.8%、貿易黒字が約2996億ドルと、米国による大規模な制裁関税にもかかわらず、全体として底堅い状況を保った。しかし、12月単月では輸出が約2200億ドル(マイナス4.4%)、輸入が約1640億ドル(マイナス7.6%)と落ち込み、米中関係の影響が貿易面でもいよいよ表面化してきた。一方、対米貿易黒字は約3200億ドル(プラス17.2%)と大幅に増加、06年以降で最大となり(17年は約2760億ドル)、米国が対中制裁を今後さらに強化させる根拠の1つになることも心配される。

以上のように、マクロ経済の需要を構成する消費、投資、輸出の成長がいずれも鈍化しており、今後はさらに経済が減速していくだろう。

■ 政策に与える影響と課題

財政政策は、これまでの「積極的財政政策」を一層強化するとされ、金融政策は「穏健中立」から「穏健」(緩和の意味合いを強化した内容)に変更された。今年に入って預金準備率が引き下げられた。また、中央政府は「収益性のあるプロジェクトには積極的に地方政府専項債券(プロジェクトごとに発行される特別地方債)を発行して資金調達を拡大する」として、地方債の増発と公共事業の拡大策を示している。実際、複数地方で都市鉄道整備事業が認可されるなど、すでに景気対策が開始されている。

一方で、構造改革を進めるという重要課題を抱えており、リーマン・ショック後のような大規模な景気対策を実施することには難しい面もある。社会の安定を維持するためには何よりも景気対策を重視していかなければならない状況であるが、安定の維持に過度に注力すれば、最重要課題である構造改革が停滞することになりかねない。国有企業改革が進まずに「国進民退」が再燃したり、環境規制の緩和によってさらに環境悪化が進んだり、政府による不要な補償や補助金等が再拡大するなど、懸念材料は枚挙にいとまがない。

■ 許されない改革の先送り

少し視点を変えれば、成長は鈍化しているものの、「6.5%程度の成長」という目標はクリアしており、「20年の1人当たりGDPを10年の2倍にする」という目標達成も間違いない。当面は財政の下支えで景気を維持していく余力はあるとみられる。今こそ構造改革を着実に進めなければならない。先延ばしは逆にリスクを高めることになり、特に高齢化がさらに加速するここ5~7年が1つのターニングポイントとなるかもしれない。それまでに構造改革が断行できるかどうかがカギとなる。

構造改革の深化、市場経済化のさらなる推進など改革の具体的内容を政策課題として盛り込むことができるか、それに伴って成長目標を引き下げることができるかなど、3月に控えた全国人民代表大会(全人代)における経済政策の具体的内容と方向性が注目される。

※ 伸び率は前年同期比

【21世紀政策研究所】

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